目を覚ませば男3人の姿はなく、近くを流れる小川で組み手をしていた。
川の水がしぶきになり宙を舞う中、
右に左にと繰り出されるファイターの腕をローズは長い髪を翻し、舞うようにかわしていく。
隙あらば攻め込むローズの動きは流動的で、
突然現れる腕や足をギリギリのところでファイターが受け止めていた。
 
 ソーズマンはしぶきを上げては鞘でそれを全て叩き落すという早業の素振りをしている。
彼の特技は瞬速の剣。
実際の戦いは仕向けた魔獣との戦いで少し見たぐらいだ。
しかし、それだけでもローズの剣や接近戦でのアーチャーの短剣の速度も速いが、
それを上回るほどだとロードクロサイトは感心している。
 
 
 ローズとファイターの組み手はローズが突き出した拳を受け止めたファイターの足を死角からなぎ払い、派手に水しぶきを上げファイターが倒れたことで終わった。
「相変わらず足元弱いなぁ。甘い甘い。」
 いい運動になったと息を乱すローズは手を差し出した。
その手を握ったファイターだが、勢いよく引き、素っ頓狂な声を上げたローズが倒れる。
「せっかく手を貸してあげようと思ったのに。アホ。」
「お前の方が甘い。倒した相手に手を差し伸べてどうすんんだよ。このお人よし馬鹿。」
 濡れた髪をまとめ搾るローズにファイターは思いっきり水をかける。
結局頭から水を被ったローズは後で覚えてろ、と笑いながら岸へ上がり、
火の呪文を唱え濡れた服を乾かす。
同様に上がってきたファイターも服を乾かし、ソーズマンも傍に座る。
 筋骨隆々な体に小さな古傷が多く付き、それが俺の鍛えてきた証だというファイターだが、
普段服に隠されているだけに見事にわれた腹筋や分厚い胸板で余計大きくたくましく見える。
一方、先ほどその大男を倒したローズはどこにあんな力があるのだろうかと思うほど、
ほっそりとした体つきをしていた。
 多少ある小さな古傷は目立たないが、唯一背中の首から右わき腹近くまで残された、
3本の爪あとだけは醜く引きつったあとを残していた。
 
 昔、ロードクロサイトに無断で出かけていた、
四天王長カウワディスが偶然見かけ襲った少女を庇い、
重症の身でありながら反撃呪文を唱えたローズに残された傷痕。
そのとき唱えた呪文が光魔法だったため、カウワディスはロードクロサイトに伝えたのだ。
呪いをかけてしまったという報告をローズが16の時聞き、
思いっきり叩きのめした後その呪いを解きにいきついでに血を吸ったのがこの魔王と勇者の出逢いだ。
 
「この傷痕は消えなかったんだな。」
 つぃ、と傷痕を指でなぞるとローズの肘鉄が飛んでくる。
難なく避けるとロードクロサイトはどうしたと首をかしげた。
「くすぐったい!!!気持ち悪いから触んないでくんない!?っていうか何時からいたの。」
 あぁ、わかったと引き下がると、
ローズの声が届いたのか女性陣が近づく気配をロードクロサイトは気が付いた。
だが男性陣は気が付いていないのか何かの話に笑っている。
 
「まったく朝からなに…」
「本当に朝から元気だ…」
「うわっ!ばか!!こっちくんな!!!!」
 木陰から姿を表した女性2人と服を乾かし中の2人の目が合う。
彼らの濡れた服は一式とも焚き火の上にある枝にかけてある…。
ということは当然2人は…。
「「きゃーーーーーーーーーーー!!!!最低!馬鹿!!変態!!!!」」
「「叫びたいのは俺(僕)達だよ!!!!!!」」
「ほっほほ元気じゃのう。」
 どこからわいたのか、ぎょっとするソーズマンの隣に現れたシャーマンは叫び、背を向ける女性陣と生乾きの服を着る2人を見る。
「あっち向いててよ!」
「うおっ!変態婆さん!!!」
「ほっほっほ、若い若い。」
 このパーティーは見てて飽きないなと、ロードクロサイトはあくびをかみ殺した。