ここが、と足を止めた場所には漆黒の柱が立つ洞窟。
強大な闇の力を感じ、手ごわいなとロードクロサイトは眉をひそめた。
が、所詮彼に敵う相手…いや物ではない。
「随分と強い闇の力じゃな…銀薔薇の坊や、気をしっかりな。」
「分かってるよ。でもまだ攻撃してくるほどじゃないから大丈夫。
問題はこれを放っている水晶の近くに来たとき、
光の結界を張らなきゃいけないことだね。」
中へと入ると徐々にアーチャーに異変が起きた。
慌てて支えるファイターにアーチャーは首を振る。
「昔の…盗みをしていた時の黒い感情が呼び起こされる…。
けど…あの時とあたしはもう違うんだ…。こんな心の闇ぐらい、受け入れてやる。」
矢を手に取り平に刺す。深く息を吐くと大丈夫だと先へ促した。
中ほどまで進むと今度はファイターが闇に捕らわれそうになるが、
アーチャーがしっかりしな、と手加減なしの平手で叩いたことで正気に戻った。
シャーマンだけは飄々とした様子で自ら冥の力を闇と同調させ影響はない。
「あれが…闇の水晶か。随分と美しいものだな。」
ロードクロサイトは黒く輝く水晶ににやりと笑う。
水晶はかなりの大きさ。そう、地面から突き出た水晶の花。
その花弁の一つ一つが人の背丈ほどあり、六方柱状の結晶がいくつも突き出していた。
自ら淡く発光している様は闇の力がなければ誰もが魅了される美しさを放っていた。
光の結界を張ったローズのおかげで近づく一行だが、
破壊するには一度結界をとかなければならない。
番人の魔物がいないのは幸いだった。
だがよくよく考えれば吸血鬼、魔王しか闇の属性はいないため、
水晶自信が放つ闇こそが武器であり盾だということだ。
「みんな、すぐ破壊するから闇に捕らわれないでね。」
「大丈夫だよ。それこそお前の方が大丈夫なのか?」
すぐ結界を張れないから闇を自分で押し出してねというローズに、
ソーズマンは大丈夫だと目を瞑って見せた。
「大丈夫だって。僕が邪な心や憎しみとか持っていないの、
ソーズマンだって知ってるだろ。勇者の紋が全部、
僕が気が付かないうちに消しちゃっていだきたくとも出来ないって」
それじゃいくよ、と結界をとき闇の力が襲ってくるのをローズは身にまとった光で弾き返す。
「ぐっ…結構きっついな…。」
「は、自分の闇を見て驚いたのか?」
「馬鹿いわないでよね、アーチャー。」
シャーマンもさすがにきついのか己の心に入ろうとする闇を押し出す。
そんな一行を早く助けたいが為か、ローズは光魔法でも2番目に高度な呪文を唱えた。
「全てを照らす万物の源よ。我に従い、我に光を与えよ。
忌まわしき暗雲を断ち切り深き闇をその光の名の下に照らし出せ!!
グァングツァイリリ【光彩陸離】」
ローズの手から眩い光が発せられ、その光は入り乱れつつ闇を襲う。
そして闇の水晶が再び体制を整える前にローズは光をまとった剣を深々と突き立てていた。
外と中からの光に水晶が悲鳴を上げる。
最後の瞬きを見せ、崩れる水晶にあっけなくてよかったとローズが肩の力を抜く。
その瞬間、離れた位置にいた一行とロードクロサイトは溢れるように吹き出た闇がローズを飲み込むのを見てしまった。
それと同時にロードクロサイトが封じた記憶の封印が崩れていくのを感じた。
闇の力が消え、自由に動けるようになると硬直したまま天を仰ぐローズへとプリーストが駆け寄る。だが、彼女がたどり着く一歩手前でパンドラの箱がこじ開けられてしまった。
のどの奥で押し殺した悲鳴が響き、絶望の絶叫が迸る。
闇の弱点であると同時に光にとって最大の弱点である闇。
闇に押しつぶされる光は弱いものだった。
「ローズ!!!」
引き攣れた叫びを上げるローズにソーズマンが駆け寄り抱き込む。
ロードクロサイト自身発端は知らないが、結末を知っているだけに封印した当時危惧していたことが起きたのかと眉を寄せる。
闇の記憶もろともが再生され飲まれる闇にもがくローズの姿は羽をもがれ自由を奪われた鳥のようだった。
全てはこの水晶の力によるものだったとすれば、
そいつらの闇の記憶もこの中には入っているはずだったのだ。
震え、暴れるローズに殴られ蹴られされながらもソーズマンとファイターは必死になって抑えていた。
「もういい、ユーチャリスのところに帰ろう。な、ユーチャリスが待つ村に。」
ソーズマンの言葉にローズは叫ぶのをやめた。
必死に闇を押さえ込む幼馴染の姿にプリーストは怯え、ただ泣く。
しばらくして、闇を押さえ込むことに成功したローズは大きく肩を上下させるとかすれた声で大丈夫という。
「ユーのためにも…早く…魔王を倒さなきゃ…。」
当時はユーチャリスというのが一体誰のことか分からなかったが、
ソーズマン達にとってパンドラの箱に残っていた希望だったようだ。
ユーチャリスという言葉だけで正気に戻ったローズは青白い顔のまま眠りに付いた。
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