鬼母の頼みと狐

 

 一人、過去を思い出していたロードクロサイトはその後のローズの変化を思い出す。
「ロードクロサイト様?どうかしましたか?」
 キルの声に現実へと戻ったロードクロサイトはなんでもないとこたえた。
よくよく考えれば今のローズの性格はあの後できたのかもしれないな、と改めて闇の力の恐ろしさを思う。
「へぇ〜。いまどきはこんなかわいいお嬢さんが格闘家なのか。そうだ。
 一ついい技教えようか?」
「いまどきみんな強くたくましく生きるのです。新しい技ですか?
 ジュリアン教えてもらいたいです。」
 何時のまにやら技の話などになっている一行はファイターとジュリアンとの間で盛り上がっている。
アーチャーはアーチャーで同じ短剣を扱うエリーと孫娘とで話が盛り上がっていた。
 
「よくそんなコートを着て戦えるな…。」
「いや、全力で敵と戦わなくてはならないというときは脱いでいる。
 しかし…もともとはキャシーと同じ弓だろう。この使い古された短剣を見るからにかなり接近戦をしているように見えるが。」
「あぁ、それ?間合いが近いときは短剣を使って相手がひるんだ隙に矢を打ち込んでいたからね。囲まれた時弓は役に立たない。」
 まぁけん制程度にしか役立ってなかったけど、
というアーチャーにエリーはそれでも十分なほど経験値が溜まっているという。
キャシーの弓の指導に合間にでよければ私の技教えましょうか?
というアーチャーに是非と答えるエリーはいつものような黒いオーラはない。
さすがに自分よりレベルの高い人に対してはいつものような態度はとらないようだ。
 
 
 結局、キャシーの両親が帰ってくるまで家事を手伝う代わりに、
 3人に修行をつけてもらうことになった。
 
 ちょっとこっちこっち、と手招きされたロードクロサイトはファイターに続いて庭に出る。
「シルフ、手ごろな岩出して。」
 あそこらへんに、というファイターにまぁ元々は一行のレベルアップの為に来ているんだからいいかとため息を吐き、どのくらいの硬さかと問う。
「そうだな…石英ぐらいかな。」
「またそんな物を…。いい加減年を考えたらどうだ。」
 見つめるチャーリーらの前でロードクロサイトは地面に手を置くと、
ロングチヤンヤン【隆起巌巌】と唱える。
僅かに地面がゆれ、ファイターの背丈よりも大きな岩が地面から突き出した。
「これでいいか?」
「おう!いや〜最近じゃあもう全然手ごたえのないのばっかで。
 土魔法使えるとこういうのをぽんぽん出せるから羨ましい。」
 それじゃあと、振り向くとポカンと見るチャーリーたちと目が合う。
「詠唱破棄で岩の硬さまで調節できるんですね。」
 すごいですね!とポリッターは眼を輝かせる。
それに対し、ネティベルは教えたでしょう、と叩く。
魔力をその属性に変えるのに詠唱が必要だが、
ロードクロサイトのように高い魔力を持った者は唱えなくとも魔法を出すことができる。
キルも鬼呪文と炎しか使えないがロードクロサイトのように詠唱破棄は出来ない。
ローズやロードクロサイトは稀に中級呪文を唱えなくても使うことがあるため、
驚かされることなんて日常茶飯事だった。