大陸に到着するなりロードクロサイトはローズに念話を送る。
ふと、そこへローブ姿の人物がやって来るのが見え、返答を聞く前に念話を切り、
その人物に目を向けた。
 
「あれ?ローズさん!具合大丈夫なんですか!?」
 やってきた人物にチャーリーは声を弾ませ聞く。
数日間とはいえ、一応同行者であるローズを気遣っていたようだ。
「うん。大丈夫。あ、ロードクロサイト様ぁwご心配おかけしましたw」
 一行への挨拶もそこそこにローズはロードクロサイトとキルの元へとやってきた。
 だがロードクロサイトは表に出さないものの首をかしげる。
キルもどこか様子が違うようなと、引っ掛かりを覚えた。
その様子に気がついたのか、人差し指を唇に当て一行に背を向けた状態で2人にウィンクする。
それにいち早く気がついたのはキルだ。
 
 
「なにしているんですか!?」
【ジキタリス様がのぅ、妾に代わりをやって欲しいといわれてのぅ。
 魔王様、2軍副将タマモでございますじゃ。よろしゅうのぅ。】
 ローズの姿で挨拶をする2軍副将、九尾のタマモ。
それが彼の正体だ。銀色の髪に銀色の9本の尾を持ち、
尖った獣耳とおたまじゃくしのような眉を持った青年。
それがタマモの通常の姿だが、そこは2軍副将である狐の一族出。
人をだますため変装などはお手の物だ。
違和感があったのは青い目を縁取る黄がないこと。
これだけはいくら真似しようともおいそれとできる物ではない。
 
【それにしても、かかとが地面についておると言うのはどうにも落ちるかぬのぅ。
 ジキタリス様と同じかかとの高い女性物のブーツじゃが、やはりピンヒールの方がよいのぅ。】
【タマモさんはもとから爪先立ちですからしかたないと思いますが…
 その姿でそれはやめてください。】
【それで…ローズは何時ごろ来ると?】
 履物の違いに不満そうなタマモに呆れたようにキルは制す。
ロードクロサイトの言葉にもうすぐ来ると思いますのじゃが…と答える。
 
 
 一行は教会に立ち寄り、レベルを聞くことと、印を持ったものがいる一行が全員戦闘不能になった時に、天の神様により飛ばされるポイントとしての記録を残す、
《冒険の書》と書かれた分厚い本に書くため、全員中に入ってしまった。
 今外にいるのは人外である偽エルフと、九尾と半鬼、そして人間ではあるが、登録できない非戦闘人であるファイターとアーチャーだけだ。
 中からはやたらと多い一行のために神のお告げとして、レベルと次に必要な残り経験値を、
妙にレベルという発音が旨い神父が長々と述べている声が若干聞こえる。
ふと、怪しむような視線を感じたのかタマモは顔をあげ、ファイターとアーチャーを見た。
とりあえず親しげに挨拶をすると軽く唇を指で叩き、しばし考える。
 
 これもまたローズにはないしぐさだ。
ローズが考え事をするときはこめかみを指で叩く。
「あ、あ〜え〜〜っと…なんじゃったか…」
「昔の仲間のファイターとアーチャーですよ。聞いてなかったんですか?」
「あぁ、伝言をとな。ファイター、アーチャー。」
 しってはおるのじゃが、と言うと手のひらを叩きそうじゃそうじゃと、2人を呼ぶ。
「あなたは誰?」
 アーチャーにいぶかしむようにとわれ、おーっと、手を合わせる。
「さっすが死闘を共にしてきた仲間だね。これから先のところで孫達を一度戦闘不能にするが、
 致命傷とか後々に残るような怪我は負わせないから黙ってみているか、
この町で待っていて欲しいとのことじゃ。それと妾はハッコン=ミズクメ=タマモというものじゃ。
 妾の素顔が見せられないのが残念じゃが…伝言は伝えたからのぅ。」
 それだけじゃ、というタマモにはぁ、と答える。
元仲間の姿と声で中身が全然違うのに戸惑いは隠せない。
第一、ローズが《ワラワ》とは言わないため、余計に違和感がある。
 
「一応連絡が来ていたから…まぁあんまりいい気はしないけど。
 確かにこのままじゃあ魔王城で死にかねないからねぇ…。
 もう少しレベルだけじゃなくて技量も上げてもらいたい。」
「せめて神山にでも行ってくれたらいいんだけどなぁ…。
 あとで縛り上げるから今は目をつぶるつもりだ。大体あいつは女性には手加減するからな。」
 だからまぁ大丈夫だろうというと、タマモは再びほーっと声を上げる。
「ほんによぅわかっておるのじゃなぁ。人間というのは絆が深くてよいのぅ。」
 ふむ、というタマモは一行が出てくるのを察するとすぐさまローズ面を被る。
 
「そういえばキル君やローズさん、ロードクロサイトさんは教会では聞けないんですよね。
いつもどうやって計っているんですか?」
 出てきたチャーリーは固まって話をしていた3人に問う。
答えたのはキルだ。
「魔界にある泉の水に呪文を唱えるんです。ただ、出てくるのは経験値だけなので、
 そこから各種族ごとに割り振られた経験値とレベルを計算して出すんですよ。
 僕はハーフなので二つの種族を足して割った数ですね。
 ただあまりにも膨大な数を計算しなければならないのと、
 同じレベルでも力の差がある人はありますから、あくまで目安です。」
 
 
 だから魔王様は計算しないんだけど、
と心の中でつけたし自分はたしか65だったはずです、と答える。
「えぇ!?65なんですか!?凄いじゃないですか…。」
「そうですか?父の方が70と高いじゃないですか。」
 まぁ雲泥の差だけど、と教会から出てきた父ウェハースを睨みつける。
魔界の神ならばきっとレベル30以下という経験値を出すだろうと、
哀れむような蔑むような視線を送った。