ざっと見渡すと兄弟に目を留め、形のよい唇をしならせた。
「勇者の紋もずいぶんと変な主人を持ったものだねぇ。まったく。
いつだって人の神は見る目がないけどね。」
指を鳴らすと地面から蔦が伸び、華奢な椅子が大猿よりも高い場所に作られシィルーズはそこに座る。四天王長と名乗ったシィルーズにエリーはローズが四天王長ではなかったのかと、
そう考えるがもともと自分の憶測だったのだ。本人が自ら名乗ったわけではない。
予想は外れたのかと舌打ちする。
ネティベルは冷静に四天王で予想が正しければ3人目と、数えた。
「さてお喋りはここまで。さぁ、サルヤシン!勝てたら一軍への入隊と褒美をあげるわ。お行き!」
大猿を縛り上げていた鎖が解かれ、小山ほどもある大猿が大きく体を震わせた。
「危ない!避けて!」
チャーリーの言葉に一斉に四方へと散開する。
だが動きの遅いキャシーやパシだけは大猿の近くに取り残されてしまった。
大振りなボーガンに鋼の矢を装填し、キャシーは5発連続で打ち出し、間合いを取る。
パシも剣を抜くと剣に振りまわされつつも大猿の尻尾を弾き飛ばした。
「へぇ年寄りの癖にはやいねぇ。」
大猿があげる雄たけびで人間には聞こえないが感心した声をシィルーズは出す。
さて、と額に手を置き、目をつぶる。
ぶつぶつとつぶやくとふわりと光の風が彼女を包んだ。
【ちょっと魔力分けてもらっていいですか?】
やや苦しそうな声の念話が聞こえ、ロードクロサイトは地面に手を置いた。
そこから地面を通して魔力を送る。
【大丈夫か?】
気遣うように声をかければ幾分具合がよくなったのか、
大丈夫ですという声が聞こえ念話は途絶えた。
大猿、サルヤシンはその巨体を生かし手を払うように地面を凪ぐ。
完全なパワータイプなのか若干遅い動きのサルヤシンは自分より動きの遅い二人に狙いを定めた。
「くっ!硬い!!キャシー!!魔矢で射止めろ!」
短剣で背後から襲い掛かるエリーは全身を覆う長い毛に阻まれ攻撃が届かない。
「わかってる!!けど間合いが近すぎて狙いがうまくいかないの!!」
キャシーは魔力を矢にこめようとするが、
襲い来る巨大な手が届かない位置へ常に動いていなくてはならず、集中できない。
パシがとっさに飛び出ると降って来た手に剣をつきたてた。
恐ろしいほどの叫びがあがり、弾き飛ばされる。
「パシさん!!」
チャーリーの声にポリッターがすばやく泡の呪文を唱える。
ネティベルはパシのダメージを見ると回復呪文と眠りの呪文を唱えた。
「一人戦闘離脱。残り9人。」
シィルーズはまだそれだけ、とため息をつく。
サルヤシンは次に背中への攻撃をしていたエリーに標的を定めた。
するとそこへ震える声が聞こえアイアンが舞う。
すると地面からグリフォンの翼と蛇の尾を持った牡狼の召喚獣が現れた。
「あら、マルコシアス。悪魔のひとつじゃないの。契約もしていない悪魔を操れるのかしら?」
サルヤシンに挑む異形の狼を見つめるシィルーズだが、
思ったとおり近づくチャーリーなどにも牙をむき、ジミーの言葉に耳を傾けない。
サルヤシンに再び襲い掛かると振り向き、ジミーとアイアンに牙を向けた。
だが思わず固まるジミーに飛び掛ったマルコシアスは牙の代わりに血の雨を降り注いだ。
腰が抜けて座り込むジミーにシィルーズは血に濡れた指を舐め取り微笑む。
一瞬で引き裂きまたもとに座るというその力量差にネティベルは愕然とする。
戦いのスキルが違いすぎる。
「戦闘不能が一人二人。残るは…白魔導師の方、あなたももうだめなのかしら?
あぁ、同士討ちで死んでも困るからつい。でも悪魔の血は不味くてだめね。それにしても…。」
ほんと、弱いのねぇというと両手を合わせ甲高く笑う。
戦意を失ったジミーとアイアンに無数の火の玉を投げつけ、
二人を戦闘不能にすると残ったパーティーにやっぱりと呟き上機嫌に関心するかのように見下ろした。
火の呪文が放たれサルヤシンの足元が爆破されてもなお、くすくすと笑う。
呪文を放ったポリッターは飛んできた尾を間一髪でよけるとネティベルの元へと駆け込んできた。
振り向くと再び呪文を唱える。
「万物を生み出す灼熱の炎よ。その偉大なる炎においてすべてを焼き尽くせ、ヤンフェング《炎風》」
灼熱の風が吹き、サルヤシンの毛が燃えた。
苦しげにもがくサルヤシンの爪がポリッターを弾き飛ばす。
ネティベルが回復呪文を唱えるがダメージが大きく戦闘不能だ。
彼女自身のMPの回復も追いつかない。
仲間のHPの減りが早すぎる。
「ここまで力量差があると回復もたいへんねぇ。このままじゃあ面白くないわ。
本当はやっちゃいけないんだけどね。」
【このままでは本当に軍に入れなきゃいけなくなるんで補助していいですか?】
うちの軍にいらないんですけど、と念話が聞こえ、
あのなぁ、とロードクロサイトはあきれる。
まぁ確かにこのままではあれだなぁと、まぁもう少したってだめそうだったらいいだろうと許可を下す。
だが、チャーリーが呪文を唱えていることに気がつきシィルーズは微笑む。
「あまたを満たす光よ、そのうちなる炎を解き放て。グァングヤン《光焔》」
まばゆい光の炎がサルヤシンに襲い掛かる。
ひるんだサルヤシンの懐に飛び込んだジュリアンが拳に雷を纏い燃えた肌にめり込ます。
叫びを上げるサルヤシンにキャシーは土で強化した矢を放ち、エリーが氷の刃をつきたてた。
まだもがくサルヤシンにチャーリーは刀を抜き、風を纏わす。
「祖父ソーズマン直伝。瞬速剣 風鎌鼬!」
刀から発せられた風が幾重もの刃となり襲い掛かるとサルヤシンは断末魔の悲鳴を上げ消える。
やっとでかいのを倒したと、チャーリーは大きく息を吐き、拍手を送るシィルーズをにらみ見た。
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