「戦闘可能なのが1・2・3・4・5…かしら。よくサルヤシンを倒せたわね。」
 さて、と椅子から飛び降りチャーリー、ネティベル、エリー、ジュリアン、キャシーの順に目を向け、
最後にいまだ兄のおかげでノーダメージなベルフォゴを見た。
ポリッターの呪文で防御力のあった毛が燃えたおかげで勝った一行。
半数は戦闘不能で回復役のネティベルはレベルの低い仲間たちのために連続で唱えていたため、
もう残りMPは少ない。
 
 
「さぁて。次は私の番ね。楽しませて頂戴。そして絶望と恐怖の声を私の剣に頂戴!」
 アッハッハッハと笑うと胸の間に手を滑り込ませ何かを引き出す。
そのとたん暗雲がたちこみ、闇の気が辺りを包んだ。
透き通っているのに透けていない。
見えるのに向こうが見えない。
闇を具現化した剣にファイターたちは目を見張る。
闇の水晶ででてきた剣を持った右腕が瞬く間に結晶で覆われ篭手となる。
右半身には黒い紋章が表れシィルーズは何かに耐えるように目を細ませた。
 
「あれが…闇の水晶。初めて見ましたが…すごい気ですね。」
「長く戦うつもりはないのだろう。やっぱり素では戦わないだろ?」
 予想が当たったと、いうロードクロサイトをよそに驚きを隠せないのはかつての仲間。
「あんなものを使って平気なのか!?」
 あの水晶の恐ろしさを身を持って知っているアーチャーは、つかみかからんばかりの剣幕で問う。
まだ光属性でもあるんだろう、というアーチャーにまぁ一応はなと答える。
「長時間は耐えられないそうだが、なんだ?大して変わらないぞ?」
 よく見てみろ、といわれファイターとアーチャーはもう一度シィルーズを見る。
 
 
 さてと、とこめかみを指で叩く。
よし、というと魔力を一気に高ぶらせ何かをつぶやくと5人に放つ。
突然のことで反応が遅れ、その光がまともにぶつかっていった。
吹き飛ばされるのを覚悟していたチャーリーは何も起きないことに顔をかばっていた腕をはずす。
「これは回復呪文!?なんで…。」
「サルヤシンを倒したご褒美よ。だってこのままじゃあ弱すぎるもの。長く楽しませてね。」
 傷が消えていることに気がついたネティベルが警戒したまま問うと、
シィルーズは弱いものいじめは基本好きじゃないの、と笑う。
それとおまけ、というと大きく息を吸い込んだ。
 長い詠唱が始まるのかと、攻撃態勢に入り同時に飛び出るエリーとチャーリーだが、
難なくよけられてしまった。
 
「戦いの記憶は風に流れ流れていく。炎は烈火のごとく燃え盛り 内なる力を解き放つ。
 全ての足場は 固く貴方を包む。生命に流れし命の水は 貴方の体を駆け巡る。
 内なる力を解き放て。ここは戦場 本能の赴くままに敵を狩れ。汝らの力を高鳴らせよ。」
 魔力をこめた歌を乱すことなく歌い、攻撃をよける。
急いで反転し間合いを開けるチャーリーの体が急に軽くなった。
「これはヴァルキリーソング《戦乙女の唄》!能力強化呪文…遊んでいるのね…。」
「正解。だって本当に弱いもの。せっかく闇の水晶を使おうと思ったけど…
 当分は短剣で十分すぎるかしら。」
 ネティベルがなんてやつなの、と眉間にしわを寄せ、怒りを静かに燃やす。
その様子をいかにも楽しげに見つめ、笑うシィルーズは闇の水晶の剣を先ほどまで座っていた椅子に突き立てる。すると腕の篭手やあざも消え、闇の気が和らいだ。
 
 
 左太ももにつけたベルトから短剣を引き抜き手のひらでもてあそぶ。
「ものっすごい変わっていると思うんだけど。今も戻ったわけじゃないけどさ…。」
 ファイターの言葉にそうか?というのはロードクロサイトだ。
本人が聞いたら本気で泣きそうだな、とキルはシィルーズの戦いに目をむける。