先制攻撃に踏み切ったのはエリーだ。
コートを脱ぎ捨て目にも留まらないスピードで駆け寄り両手のダガーナイフを交差させる。
 
〔ッガキッン!〕
 受け止めたのは短い短剣。
交差させたナイフの間に立てた剣は片手だというのにエリーにそれ以上の動きを許さない。
前にかけた体重が受け止められ、エリーは反応が遅れる。
微笑み、一歩前に出ると空いている手でエリーの頬をそっと撫でる。
 
「可愛い子猫が獅子のまねをしても所詮は子猫。でも貴方…いえ貴女ね。
 いい殺気を持っているわ。研ぎ澄まされた殺意。でもね。
 あなたが殺意を抱くのは特定の人だけ。
 鋭く研ぎ澄まされていてもその矛先以外はまったくの無害。
 貴女は魔物に対しての殺意が少ないわ。そんなんじゃあ私に刃は届かない。
 だってほら。貴女の剣は私に傷一つ残せない。それどころか…貴女は刃を失う。」
 
 今度こそ反応できたエリーは繰り出された蹴りを利用し、後方に飛び下がった。
体勢を整えるとすぐ手元で金属の割れる音を聞く。
まさかと、手元を見れば鋼ででてきたダガーナイフが真っ二つに折られていた。
すぐさま別の短剣を手に取り刀を構えるチャーリーと視線を交わす。
 
 
「後方攻撃はできないけど回復は惜しまないわ。だから安心して頂戴。」
 魔力の消耗で肩で息をしているが大丈夫、
というネティベルにチャーリーは無理をしないでくださいといい、
ジュリアンとキャシーに目線を送る。
ベルフェゴは怯えたように離れたところにいるため大丈夫だと自分に言い聞かせ、
シィルーズに視線を戻した。
「!?いない?…っ!」
 だが、いるはずのシィルーズはおらず、
チャーリーは驚きに目を見開くが本能的にかかげた刀に強い手ごたえを感じ、
ぎりぎりのところにある短剣を凝視する。
「貴方、さっきの私の歌を聞いていなかったら間に合ってなかったのわかるかしら?」
 目の前に突然現れたシィルーズはそういうとジュリアンの攻撃をよけるため消えた。
手に残る痺れに確かに強化されていなければ最悪、腕を落としていた、と嫌な汗が流れる。
戦いの経験値が足りない。
 
 
「貴女の攻撃はまっすぐでとてもきれい。けど貴女からは全然におわないわ。死の匂いが。
 まだ純粋で血に染めていないきれいな臭い。まだ初心で純粋な夢見る乙女の甘ったるい臭い。
 あぁ、でも微かに香るわ。貴女から死と憎しみと荒れ狂う魂の匂い。
 貴女、昔はその力をもてあましていたのね。けど死を知らない。私の大嫌いな甘い臭い。」
 いともたやすくジュリアンが繰り出した蹴りを受け止めたシィルーズは爪を食い込ませ、
滴る血を舐めとる。
かっと顔を赤くしたジュリアンがその不安定な体勢からも腕に雷をまとわせ懐に拳を突き出す。
掻き消えるようにして離れるシィルーズの足元をキャシーの矢が掠めていくがあたらない。
エリーとチャーリーの同時攻撃を優雅に回転し短剣であしらう。
 
 
 間合いをとるとふぁ、とあくびをかみ殺し若干眠たげに5人を見た。
「あ〜…。やっぱり体調が万全でないからな…。術を使いながらの戦闘は体力的に厳しかったか。」
 やれやれというロードクロサイトになんかすっごくらしいよというアーチャーとファイター。
キルはと言うとさすがだなと感心した様子で見ていた。
 キャシーのそばに現れるとチャーリーの稲妻が届くより先に、
その場でくるりと回転し勢いをつけて鳩尾に肘を入れ、体勢を崩したところにとん、
と肩に手刀を入れて体の力を奪った。
一応それなりに気を使っているのだろう、ちらりと自分には見える結界を見る。
笑顔で中指を立てるアーチャーにはぁ、と小さくため息をつき、
飛んできた氷の刃を再びあくびをかみ殺し指先で払う。