「全滅。さて、最後にもうひとつ。」
 兄が倒され、思わず食べ物を取り落としたベルフェゴだが自分から動かない。
ただこの事態だけは大変だと理解しているのか、わかっているのか青ざめる。
剣を振るい消すと動けないでいるベルフェゴの元へ、
シィルーズがチャーリーを引きずりわざとゆっくり近づく。
「どうしたのかしら?わざわざ最愛の兄を連れてきてあげたのよ。
 それとも貴方が仇をとるというのかしら?」
 微笑み、ベルフェゴの足元にチャーリーを投げ捨てる。
「兄ちゃん!!」
 口から食べ物をこぼしながら兄にすがりつくベルフェゴをシィルーズは蹴り飛ばし踏みつける。
体の脂肪が幸いしてかダメージが軽減されるが恐怖で震え、見下ろすシィルーズを見上げる。
 
 
「へらへらいつも飯食うだけの役に立たない上に、
 兄がやられても剣を抜き守ろうともしないだなんて、素晴らしい兄弟愛ですこと。
 餌をくれる飼い主がいなきゃピーピー泣き喚いて何もしない家畜。
 いえ、家畜だって本能的に危ないと思えば攻撃してくるだけましね。
 いっつも自分は影に隠れて、足引っ張って。楽しい?
 大体さっきの鎌鼬だってよけようと思えば避けられるもの。でもよけなかった。
 何でだかわかるかしら?ほら見なさいよ。引きずってきた跡。
 まっすぐ伸びているのわかる? 足手まといを守るために避けられなかったよ。」
 体重をかけ、屈み込むとにごりきったベルフェゴの目を見つめる。
その目は恐怖で見開かれ、小刻みに震えていた。
「そうやって貴方のお兄さんは守ったのに、守ったのがこんなのじゃ無駄だったようね。
 同じ血を引くものなのにどういうわけかしらね。
 貴方みたいなただの邪魔者がいるせいでお兄さんは戦いの経験値が低かった。
 それは貴方がいつも服を握って動けないようにしていたから。そんなこともわからないの?
 大体、どうして貴方が勇者ということになっているの?」
 がちがちと震えるベルフェゴだがなかなか声が出ない。
さぁ、というシィルーズに震え上がる。
 
「だっだって…ゆっ勇者は……かっこいいから…なりたいっていったら兄ちゃんが…
 ぼっぼくに痣があるからって…。だったから…あっあこがれてて…。
 おっおいしい物だって食べられるって…そう思って…。」
 何とか言葉を出し、つっかえながら言うとシィルーズはさらにヒールをめり込ませた。
殺気が目に見えるのではないかというほど漂い、眼がギラリと光る。
その目はいつの間にか青と黄になっていたが恐怖で震えるベルフェゴには見えない。
見えるのは再び変わった空気と、宙にうく赤い髪。
そして伸びた犬歯。
 
 
「あこがれる?かっこいい?はっ!ふざけるのも大概にしろ。勇者は誰もがうらやむ神の使い。
 唯一魔王を倒すことのできる人間。人を愛し、慈悲深く、人を疑わない聖人君子。
 だからお前みたいな家畜でも許され迎えられる。
 ろくに動きもしないのに勇者だとあがめられる。あがめている人々の思いがわかっているのか?
 どんなものでも勇者というならばお前に期待してるんだ!!
 それも返さずただ食べることのみで怖くなったらすぐ兄の後ろに隠れて足引っ張って…。
 軽々しい気持ちで勇者だのいうんじゃないよ!!
 勇者の責任がどれほど重いのか!遊びで戦うなら今すぐ消えな!」
 激昂するシィルーズは足を引くと蹴り飛ばす。
今度こそ本当にパーティーが全滅すると光が一行を包み消えていった。