手当てを受け、待っていたファイターとともに宿へ来た一行は誰もが重く口を閉ざしていた。
珍しいことにベルフェゴですら大好きなお菓子をほおばっていない。
窓辺にはロードクロサイトとキル、それにローズに化けたタマモが成り行きを見ていた。
ファイターとアーチャーも一行がどんな進路を決めるか見守る。
「悔しいです…。」
 ぽつりと静寂を打ち破ったのはジュリアンだ。
間合いにすらあのときしか入れなかったと、悔しさにこぶしを握り締める。
「あんなに短い短剣であしらわれるなんて…。」
 そうつぶやくのはエリー。刃の欠けた自分の獲物を見ると改めて実力の差を感じる。
「届かないどころか…遊ばれていたわ…。」
 ネティベルはあの斬激で痛む左腕を右手で握り締めた。
回復が追いつかないどころか、攻撃すらできなかったことに悔やむ。
 ジミーは自分の出した召喚獣が自分に牙を向いたことと、
目の前で消えていったことにうつむく。
シィルーズ…いや、ローズはどうやら全員に対してその弱点や欠点を言っていたらしい。
それも念話で。
人間に向けたものでロードクロサイトには聞こえなかったが、
ジミーがようやく自分の正しい職を理解したようでウクレレを軽く指ではじくだけ。
アイアンにいたってはどうしたらいいのかわからず、重い空気に黙っている。
 パシは早い段階でやられていたため、後のことはわかっていないが自分の限界を悟ったらしい。
剣を置くとふぅとため息をつく。
 
 
「あの魔物、教会にあった資料に書いてありました…。
 僕達の付けかたでレベル42だそうです…。一応僕たちの平均は49…。」
 それなのにあんなに苦戦してしまいました…と落ち込むのはポリッター。
「おっおいらは…すぐにたっ倒されて…。」
 そういうのは開始早々戦闘不能になったウェハース。
見せ場どころかロードクロサイトからは存在すら忘れられていた。
キルはそんな父の姿に大きくため息をつく。
「あたし!全然かなわなかった!!せっかくおばあちゃんに教えてもらったのに!
 あたりもしなかった!!」
 そう涙ぐむのはサルヤシンにしかあたらず、接近され何もできなかったキャシー。
彼女もまた、何かローズから言われたらしく、悔しいよ!という。
「強くなりたいなぁ…。」
 チャーリーのつぶやきに一行はため息を吐いた。ひとまずは休憩しようと、
それぞれ眠れないながらに部屋に散っていった。
 
 
 その翌日も今後について話し合うばかりで先に進まない。
(なぜ強くなりたいと思うのに行動をしない。)
 苛立たしげに見るロードクロサイトは一部に正体がばれているため下手に助言はできない。
ここで全員に正体をばらされては厄介だ。
 
 翌日、こまったときはきょうかい、と言い出したアイアンにより一行は教会へと向かった。
「あのねぇ、きのうゆめでおんなのひとがね、あしたきょうかいにみんなできなさいっていうの。
 だからきっとなにかあるよぉ。」
 いまだ沈んでいる一行の中で唯一明るいわけでもないが、
暗いわけでもないアイアンを先頭に世話になった教会へとやってきた。
その入り口に一人の女性が背をむけ立っていた。
 
一行が近づいたのに気がついたのか振り向くと白いフードを下ろす。
その顔を見たネティベルは驚いたように目を見開き、すぐに礼をとる。
その様子に首を傾げるチャーリーだが、最後尾にいたファイターとアーチャーは思わず言葉をなくし、
ロードクロサイトも驚いたようにその女性を見た。
キルだけはその女性から来る気にいつでも剣を抜けるよう若干構える。