夕暮れまで時間があることもあり、魔王一行は外に出る。
「この町か…懐かしいなぁ。」
「知っているのか?」
古い教会を見たローズは懐かしげに呟く。
何の変哲もない外見にロードクロサイトが首をかしげた。
キルに抱えられ、ごく普通の狐に変化しているタマモも軽く首を傾ける。
「あぁ、この町は僕達が村を出て、初めて冒険の書を書いて、
お告げを聞いたところなんですよ。レベルの発音にすごい特徴があって…。
本当に懐かしい。」
眼を細め西日に輝く十字を見る。そこへ一人の老人がやってきた。
一風変わった集団に気がつき、避けるかと思いき近づいてきた。
すぐそばまでやってくるとローブからはみ出たローズの髪をしげしげと眺め、
にこやかに笑う。
「旅のもんかい?お前さん、昔わしが小さい頃見た銀月の勇者様のように、
綺麗な銀色の髪をしとるのぅ。ここはのぅ、魔王は倒れんかったが、
いろんな村や町を守った偉大な勇者様の出発の町なんじゃよ。
あの方がいなければ、この辺は山の洞窟に住んどった魔物の親玉から魔物が
どんどん生まれておったわ。
今こうして旅をすることが出来るのも銀月の勇者様のおかげなんじゃよ。」
眼を輝かせ、語る老人にローズは眼をそらし相槌を打つ。
ひとしきり語り終わった老人はよく隅々までみるんじゃよと立ち去っていった。
「本人を目の前に言われても…だな。」
「まぁ普通なら死んでいるか、あのおじいさんほどになっていたんでしょうから、
気づくはずはないですけどね。困ったなぁ…。
本とか残っていたらあの人たちにばれそうな…。」
苦笑するロードクロサイトにローズは肩をすくめてみせ、こめかみに手を当てる。
考えてもしょうがないかと言うと、手をたたいているロードクロサイトを半目で見る。
「そういえばそういう危険性もあったんだな。」
「あたりまえですよ!!これでも一応80年前は一部の馬鹿を除いて、
名前だけは通っていたんですよ?」
外見の特徴が広まってくれれば説明しなくて済んだんですけどねと、ため息をつく。
「そうじゃ、ジキタリス様。冒険の始まりなどはどのようなだったのかぇ?
あまり話を聞いたことが無いのじゃが…。」
ふわふわとした尻尾を揺らし、タマモはキルの肩越しにローズを見る。
おとなしくしていて下さいとキルに抱え直されるが、好奇心に満ちた目を向け続けた。
「え?冒険の初め?大して面白い話じゃないし…。」
「幼少の頃でもよいのじゃが…。」
思い出せないなぁ、と呟くローズにタマモは食い下がる。
「子供のころねぇ。」
気乗りしないようになおも呟き考える。
思い出したらというと、広場の一角に眼を留めた。
ロードクロサイトも気がつき足を向ける。
「やぁ旅の方かな?どうだい?移動博物館イストリアの滞在は今日が最後だよ!
皆でたくさん振り返ろう!知ろう、学ぼう、この世界のことを!」
古い道化師の服装に身を包んだ男はおどけていうと空き地に設けられているテントを示す。
動物は立ち入り禁止とかかれており、タマモは人の姿へと化けた。
普段と変わらないが獣耳が髪で隠れている。
まだ残っていた賞金から代金を払うと、広いテントへと足を踏み入れる。
【へぇ…人間の歴史っていうのは聞いていただけですけど、
いろいろ種族…といいますか、その違いがあるんですね。】
中はどこからか柔らかな音楽が流れ、静か過ぎるというわけではないが、
うるさいわけでもない。
布や鎧、古い家具やなにやらでいくつもの通路に変われており、年代別に分かれている。
念のためにと、念話で会話する一行はだんだんとそれぞれ興味がある方向へと散っていく。
魔王軍2軍の2人は歴史やら古文書の前で立ち止まり情報を仕入れ、
魔王は魔王で武器や防具のほうに行き…。
「そんなに面白いかなぁ…。」
ため息混じりに言うと、ローズはいつの間にか消えていた3人を探しに行く。
地方や国で人種が違うというのは知っているが、
魔界人になってみればどれも同じ人間として区別しようが無い。
この角の先にいるだろうかと、曲がったところでローズは足を止めた。
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