伝説の剣と書かれたコーナーの前にロードクロサイトはいた。
[浄化の剣:聖剣エクスカリバー、命の剣:精剣マナ、豊かさの剣:宝剣バルムンク、
 心の刀:神剣天叢雲剣。この4本が神々がわれわれに授けて下された伝説の剣である。
 エクスカリバーはその一振りで毒水と化した闇の泉を光の泉へと変え、魔物を断ち切る力の剣。
 マナは一度振るえば森は豊かになり緑が生い茂り、大自然を味方につける魔法の剣。
 バルムンクが切り開いた道はやがて豊かな富を残し、その輝きは闇をも明るく照らす輝きの剣。
 天叢雲剣は道を切り開き、人の心を守る柔の剣。
 伝承によればエクスカリバーと天叢雲剣は兄弟剣であるという。
 伝説の勇者はかつて仲間と共にエクスカリバーを手にもち、
 魔王を打ちに行くという話しはさほど古い話ではない。]
 絵のよこに貼られていた説明を読みむと再び眼を移す。
そこにはバルムンク、マナ、天叢雲剣の古い絵が張られており、
エクスカリバーだけは詳しい形状は不明と書かれている。
 
 
(そういえばローズはどこに行った?)
 
 不意に思い出したロードクロサイトは辺りを見回す。
少なくとも今いるコーナーの近くにはいない。
まったく勝手にはぐれて、とため息をつくと2つ目の角を曲がったところでローブが見え、
足早に近づく。
「まったく、キル達もどこかに行ってしまったし。」
 勝手に散り散りになるなと、ローズのそばに立った。
だがローズから返事は無い。
ただ、無表情のままそこに置かれている展示品を見つめているだけだ。
[人の闇の歴史:昔、闇の神殿という何人たりとも寄せ付けない神殿があり、
 そこに住む魔物により闇に染まった人々のさまざまな歴史がある。
 中でも、現在は魔物が住み着いてしまったエリクサンドラに隣接した、
 旧コンゴラは人の売買が盛んで一部の者達はイギナリデッド国近辺にまで範囲を広げていた。
 近辺の村では人攫いなどが行われており、深刻な問題となっていた。
 同時期、同様の深刻な問題としては魔物により食料がとれず、
 養えない子を山に捨てるといった捨て子である。]
 
 そこまで眼を通したロードクロサイトはローズの手をとると、
引きずる様にその場を離れる。
先に外にいると念話を送ると、若干奥まった路地へと入り木箱にローズを座らせた。
「あ…。ロードクロサイト様…。」
「大丈夫か?顔面蒼白だぞ?」
 ぼんやりとしていたローズははっと気がついたように辺りを見回し、
ロードクロサイトを視界に入れる。
顔色を言われ、思い出したかのように腕をさする。
「あの当時はひどいもんでしたからね…。」
 苦笑するように笑い、ローズははぁと大きくため息を吐いた。
「だがまぁ…コンゴラは滅びたし、あの奴隷商人らも生きていないのだろう?」
「そうですけどねぇ。まぁその話はおいておきまして、どこ行ってたんですか?
 振り向いたら誰もいないので驚きましたよ。」
 やれやれと首を振ったローズはロードクロサイトを見上げ、眉を吊り上げる。
「なにを言っているんだ。ローズたちがいなくなったんだろうが。
 前を見たら誰もいなかったぞ?」
 子供じゃないんだから、と呆れるように軽く息を吐く。
ローズの吊り上げた眉がぴくりと動く。
怒りを沈めるかのように深く息を吸うとあのですね、と微笑む。
「お言葉ですが、入ったときロードクロサイト様は僕の隣にいましたよね。
 それなのになぜ最後尾にいたんでしょうか?
 だいたい、一応順路というのがかかれていましてね、
 迷子にならないよう矢印があるんですよ。
 僕達はそれ通りに歩いているはずでしたよね。
 なぜその順路の中にいて目の前にいた人がいなくなるのでしょうかねぇ。」
 そんなものあったか?という主君に呆れると同時に、
迷子のロードクロサイトを浮かべ心の中でそれもありだと強く拳を握る。
 
 
「そういえば矢印があったなぁ。まぁ順序に従わなくてもいいだろうが。
 見たいものを見ればいいのだし、まず迷うことは無いだろう。」
「ただでさえ迷子になるほど…なんですからはぐれないでくださいよ!!
 せめて声をかけてください!」
 可愛いけどまずはそこが問題です。と膨らむ妄想を押さえ怒る。
迷子になって心細さにうるっとしているロードクロサイトを思い浮かべ、
出そうになる鼻血を堪えた。
 ため息を吐きわかったというロードクロサイトに手を差し出す。
意図がわからず、とりあえず握手するように握ると強く引かれたたらを踏んだ。
そのまま立ち上がるローズにようやく意図を知る。
「自分で立てるだろうが。」
「いやなんというか…ノリで…。それより手、ちょっと荒れてません?
 ちょっと待ってください。」
 確かこのポケットに…と取り出したのは、手に塗る肌荒れの薬だ。
「あぁ…。よく持ち歩いているな。」
「インキュバスですから。美容とかそういうのには気を使っているんですよ。
 でないと食事にありつけませんからね。」
 ローズはなんでもないように言うとそれもそうかと納得した。
 
 
 そこへキルと狐姿のタマモがやってきた。
「すみません。つい仕事の癖で…。どうかしたんですか?顔色悪いですけど…。」
「トラウマでも合ったのかぇ?」
 ローズの顔色に気づいたキルがやや心配げに問うと同時に、
タマモがまさかそんなことは無いだろうという。
その場に撃沈するローズになんとも言えない空気が漂った。
「いまいちジキタリス殿の地雷がわからんのぅ…。」
 再びロードクロサイトの手をかり復帰したローズはどこと無く遠くを見つめる。
「いや…今回は2つあったからだけど…。
 あぁ、そういえば子供の頃って聞いてたよね。
 すぐ父さん達に救出されたけど、山に捨てられて餓死しかけた。」
 あれは死に掛けたなぁ、と笑うローズは宿に戻りましょうと路地を出る。
やや下がった尖り耳とため息のような笑い声のような声に一番の地雷だったかもしれないと、タマモも尾を下げた。