頭一つ分下にあるローズの頭に手を置くと、ロードクロサイトはよしよしと撫でた。
びきっと、音が聞こえローズの頬が引きつる。
わしわしと撫でられバンダナが若干ずれているがそんなことではないらしい。
最後にはポンポンと慰めるようにたたかれロードクロサイトは横を通りすぎる。
ゆらりと立ち上る寒気に、慣れているはずの2軍2人は足早に追い越すした。
 
「ロードクロサイト様!!人が背丈気にしているのに頭撫でるこったぁないでしょうが!!」
 先ほどまでの暗いオーラは消し飛んだが、別のオーラが爆発しわなわなと震えている。
そのせいか、敬語が乱れていたが本人は気にした様子は無い。
「いや…。ちょうど良い高さだったんで。つい。」
「ついじゃないですよ!!!まったくもう!髪の毛ぐちゃぐちゃだし。
 うわ、絡まってるし…。最悪。
 魔力で伸びてるんじゃなくて地毛なんですからやめてくださいよ!」
 バンダナを外し手櫛で解くと絡まった箇所を慎重に解く。
「師匠…今日はいている靴…。ヒール何センチですか?」
「うっさい!ちゃんと戦えるからいいでしょ!5センチだよ!悪い!?」
 たとえるならば現在のローズは毛を逆立てた猫のように怒りを露わにしている。
 
 
 やっとなれたんだからというローズにキルは呆れ、タマモは背丈を見比べると首をかしげた。
「ずいぶんと高いんじゃのぅ。しかしそれで妾より頭一つ分小さい…。」
「小さいんじゃないよ!小柄なの!小柄!
 大体なんで魔物になったとたん成長止まるわけ!?ひどくない?
 次小さいとか言ったら本気で消すよ!?まったくもう…ただ小柄だっつうのに…。」
 怒りのまま手短にあった壁を殴りつけ、ひびを入れる。
いや、亀裂を入れる。
ヒールを見るともう少し高くしようかなと呟いた。
「厚底を履いたらどうだ?」
「サイズがあれば履いてますよ。
 いや、そうすると外からはっきり見えるのでなんというか…認め…
 でなくて気にしている風に見えるのであれというか…。厚底は…。
 足挫いた事あるから嫌なんですよ!!」
 ロードクトサイトの言葉にローズはうなだれる。
声をかけるまもなく、ほっといてくださいと叫びながら走り去っていってしまった。
立ち去った遠くからは、魔界人の耳をもってしてもかすかにしか聞こえない音量で神様の馬鹿やろうと聞こえ、ぐすっと言うのさえ聞こえる。
「そうとうショックだったらしいな。」
「泣きましたね。」
「人のかかとであの高さでよく走れるのぅ…。」
 タマモはさておき、ロードクロサイトとキルは顔を見合わせる。
どうしますかというキルと違い、ロードクロサイトだけはにやりと笑う。
どこか楽しげな様子で念話を使い、ローズを説得しているロードクロサイトを仰ぎ見るとキルとタマモは顔を見合わせた。
 
 
【悪かったな。もうやらないから戻って来い。】
【少ししたら戻ります。】
 ローズの意気消沈した声にロードクロサイトはどうしたものかと考える。
【まぁ今回は私も本当に悪かったと思っている。
 そこまで気にしているとは…まぁなにか望みがあったら一つ何でも叶えてやろう。】
 ロードクロサイトの言葉に、しばしローズは考える。
まばゆい光が走り、ローズが入れた壁の亀裂に入り込む。
そこから伺うように眼だけが闇からのぞいていた。
「本当ですか?」
「あぁ、いってみろ。」
 え?と困惑するキルを尻目にローズが亀裂から出てくる。
逆行ではっきり表情が見えないが、何かを迷っているそぶりでうなっている。
らしくないその仕草にキルは何か嫌な予感がし、ローズの動向をうかがった。
「じゃ、じゃあ…一度でいいので…。城に戻ってからでいいので…。」
 なにを言うつもりだと、身構えるキルにぼそぼそというローズだったが、
意を決したかのように顔を上げる。
何か問題発言をする気かと、キルが前に一歩飛び出した。
「添い寝してください!」
 若干顔を赤くし、まっすぐロードクロサイトを見るローズに、
キルは勢いあまって壁の亀裂にぶつかってしまった。
そのとたん壁が崩れ、タマモがキルのそばへと駆け寄る。
「なんだ、前々から何か頼みがあるのかと思っていたが…そんなことか。
 まぁそうだな。城に戻ってからだな。」
 約束しようというと途端にローズは眼を輝かせる。
「いや〜。それにしても昔の糞生意気だった頃のローズとの会話見たいで面白かったなぁ。」
「だから楽しそうにしていたんですか…。ん?どうしたのキル?」
 脱力しきった弟子にローズは首をかしげると大きくため息をつかれ、
頭上にクエスチョンマークが飛び交う。
「いつもいつも変態的な発言しかしないのに…いきなり何言ってるんですか!」
「いや、だってほら、面と向かって言われると…。ちょっと恥ずかしくて。」
 添い寝だけでも嬉しいなと、がらにもなく照れた様子で笑う。
案外、いつもの変態発言も放っておけば勝手に撤回して照れているのでは、と呆れる。
万が一を考え事前に止めることはやめはしないが。