ようやくいつもの調子に戻ったローズだったが、
宿に戻るとプリーストを思い出し頭を再び抱えてしまった。
「ネティベル、あとでとっておきの聖魔法教えてあげるわ。淫魔とかにすっごい効くの。」
「なんでまたそんな…ピンポイントかつ、希少な…。」
そこまでいいかけ、ネティベルはプリーストが反応を見ているローズを見る。
本人はまったく見向きもしていないが返ってそれが白々しい。
何の魔物かと考えていたがまさか淫魔だったとは…と半ば白い目を向けた。
「プリースト先生…。あのキャシーの祖父母のファイターさん、
アーチャーさんとは昔の仲間ですよね?」
「えぇ。もう80年ぐらい前ね。懐かしい遠い昔。」
確認のためときくネティベルにそうよと頷く。
手に持ったカクテルを回しローズを見つめつつ遠くを見る。
「ずっとずっと前に過ぎてしまったことよ。
アーチャーとファイターは共に暮らす道を選んだけど皆ばらばらの道を歩んだの。
それだけ。」
話したって面白いもんじゃないわよ、とプリーストは笑う。
とりあえず次の目標が見つかったためと、
強くなるためにと気持ちを入れ替えた一行は明日に備えてしっかり食事を取る。
だが、その中で一人パシだけはあまり食が進んでいなかった。
「どうしたんですか?パシさん。まだどこか具合が悪いんですか?」
心配になり尋ねるチャーリーにパシは首を振る。
「わっわしはのぅ…。ず〜と昔に魔王に敗れてからのぅ…。
まだまだじゃと思っておった…。でものぅ、この前の戦いでのぅ…。
普通の大きな魔物を倒すことが出来ても…
魔王城では役に立たないとわかったのじゃ…。
わしはみなよりHPもひくいんじゃ…。
わしを回復するよりも若いものが戦うほうがいいんじゃよ…。」
久しぶりに長く話したパシはそこまで言うと近くの茶を飲む。
「大丈夫ですよ!パシさん強いじゃないですか。」
「でものぅ。わしはこれ以上はもう強くなれんのじゃよ。実はのう。
昼に偶然孫に会ってのぅ。久しぶりに会う孫じゃったんじゃが…
ここであったのもきっと神様の知らせじゃと思ってのぅ。チャーリー君。
すまないのじゃが…わしはもうここらでお別れじゃ。」
どこか疲れた様子でいうパシにキャシーが入ってくる。
「おじいちゃん!おじいちゃんはまだできるよ!!ねぇ?!おじいちゃん!」
「え!?あぁそうだな…。しかし、キャシー。
おじいちゃんとおばあちゃんは昔に食べた天界の物のおかげで若く見えるんだよ。
パシさんは普通に年取って90歳超えて…まだ戦えていたんだ。」
突然孫に振られ、ファイターは一瞬、
どのおじいちゃんなのかわからず目をしばたかせ、頭を撫でる。
「でも本人がもう疲れたというなら強制をしてはいけない。
それに…ほら、孫娘さんが迎えに来てる。キャシー。
寂しいのはわかるけど邪魔しちゃだめよ。」
ほら、とアーチャーが示した宿の玄関には白衣を着た女性が無造作に束ねた髪を後ろに流し、
一行を見ていた。
細い眼鏡をかけどこか不機嫌そうだが、つかつかと歩み寄ってくるとパシの前に立つ。
一行の奇抜な面子にまったく動じずチャーリーのほうを見た。
「眼鏡は伊達だな。かなり無造作に髪を結わいているが…たぶん美人だな。」
突然ちらりとその孫娘を見たロードクロサイトがそう呟き、
傍にいたローズやキルは思わず机に突っ伏す。
【何を言うのかと思えば…。ほんに整った顔をしておるようじゃ。
そう思わぬか?ジキタリス殿。】
【まぁ確かにまともな格好をしたらきれいだろうね。インキュバスの血が保障するよ。
けど、なんか嫌な予感しかしないんだよねぇ…。】
膝の上に丸まった狐にローズはため息をつく。
たいていの場合、ローズの嫌な予感というのは当たるもので…。
「うちの爺が世話になった。まぁ歳だ。後はうちで介護するさ。」
口を開けばやや低めの声で口が悪い。
やっぱりねと心のうちで呟くと若干引いているロードクロサイトを見る。
「わしの孫のヘイラーじゃ。すまんのぅ迎えに来てもらってのぅ。」
「まったく。せっかく新しい鎧を作ってやろうと思ったのに。
でもまぁ魔王城で食われるよりはましか。一行の方々、今まで本当にありがとう。
やっとうちの爺も引退できるってもんさ。
これ、お礼といっちゃ何だけど…爺の弟が経営している店で使える組合カード。」
やれやれというと、あの重い鎧をざっと点検し小さくため息を吐く。
これをとチャーリーに差し出されたものはあの全世界に展開しているY村商店の50%オフカード。
「わしが出来んのはこれくらいしかないのじゃが…。ありがとうのぅ。」
大変じゃったが楽しかったと、パシは笑いよろよろと立ち上がる。
「パシさん、元気で。」
「おじいちゃん!今度またご飯作るね!」
「パシお爺さん…ぼっぼくも頑張ります!」
「もってなによ。パシさん、今度腰痛やらなにやらに聞くような回復薬、
もって行くわね。」
「キッキホーテさん、おっお体にきっ気をつけて。」
「おじ様、今度お給仕にまいりますからジュリアンのこと、忘れないでくださいね。」
「……………」
「あのねぇ、ジミーくんがまたあおうって。おじいちゃんこんどまたあそぼうね!」
「おじさん、帰るの?またお菓子く…頂戴。」
「パシさん、本当にありがとうございました。絶対魔王を倒して会いに行きます!」
次々に別れの言葉を口にし、最後にチャーリーがお礼を言うとまたのぅ、
とパシは一行から外れた。
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