さまざまな不安を抱いたまま夜が明け、ロードクロサイトは大きくため息をついた。
とりあえずはローズの故郷、フレッシュミントで一息ついてからだな、
と食堂で頬杖をついているローズの頭をはたく。
手がはずれ机に頭を打ちつけたローズはあくびをかみ殺し損ねつつ、目を覚ました。
「食堂で寝ていたのか?」
「あぁ、もう朝ですか。おはようございますロードクロサイト様。」
 ロードクロサイトの問いに、やっと完全に目を覚ましたローズは鼻頭をさすりつつ、
隣に座ったロードクロサイトに挨拶をする。
「今日は起きてすぐで機嫌悪くないな。あぁ、背中。出てるぞ。」
「うつらうつらしていただけですからね。」
 ロードクロサイトにいわれて“それ”に気がつき、ぐっと背中に力を入れしまう。
抜け落ちた羽毛を拾い上げロードクロサイトはしげしげと眺める。
「まだ消えないのか?」
「こればかりは魔の神にとってもらうほかないですが、変に気に入られてしまって。
 すみません。朝からお見せしてしまって。
 もいでしまっても構わなかったのですが…。」
 まだ誰もいない早朝の食堂でローズはうなだれる。
 
「そういう意味ではなかったんだが…。空を飛ぶことの出来ない片方だけの“それ”
 に意味はあるのかとおもってな。」
 それと誰もいないときぐらい敬語は良いだろう、
というロードクロサイトにローズは笑う。
「どうしたんですか?急に。」
「いや久々にローズの仲間を見ていたらなんか違和感があってな。」
「でも元から結構丁寧な言葉しか話していないような…。
 ロードクロサイト様には全然敬語使っていませんでしたね。
 でももう…覚えてませんよ。一体どんな口調だったかなんて。」
 考え込むローズだが、耳をそばたて階段を見る。
ロードクロサイトも気がつき、目を向けた。
 
 
「あ、おはようございます。なんかお話中だったので…。」
 階段から姿を現したのはキルだ。内容は聞こえなかったらしく、タルから水をとる。
「あ、キル。ここらの水は上流にひっどいヘドロの沼から漏れている汚水で不味いよ!」
 すでに水を口に含んだキルはすぐに噴出し、むせこむ。
「だからここの水飲むときはそのままじゃなくて…」
 タルからとった水を桶に流すと出てきた水をコップで受けレモンを絞り、
キルに渡す。
「こうして飲むものなんだよ。
 まぁ…セルフサービスだから知らない人が多いんだけどね…。」
 ロードクロサイトにも水を渡し、自分も一口飲む。
「その沼ってまさか…。」
「昔ロードクロサイト様が落ちた溝の源ですよ。
 どうも地下の洞窟が動物の墓場みたいで…。
 本当は放っておけば土になるんでしょうが、
 あるやつらだけはそこで毎回死ぬんで悪臭がひどくて。」
 
 これはろ過したんで飲める水ですけどね、
と眉をしかめコップを見つめるロードクロサイトに言う。
「そんなに怪しむなら僕が飲んだのでよければ大丈夫ですよ。」
 少しレモン大目ですが、と渡す。
「うわっ変態菌が…。」
 思わず呟くキルにローズの手刀が入り、
特に気にしていないのか聞こえていないのか、
ロードクロサイトはそれなら大丈夫だなと飲む。
「あのねぇ。菌扱いしないでよね。
 それはそうと、フレッシュミントにキルも来るんだろう?」
 角で手刀を受けたキルはそうですねと、自爆したローズの赤くなった手を見る。
「どんな村なんですか?」
「ド田舎。四方を森と山で囲まれた辺鄙な村だよ。
 たまに山越えした人が遭難して保護されるくらいで、
 村人見るためだけに来たなんていうのはロードクロサイト様ぐらいなもので
 普通は誰も来ないね。特産も無いし、丘の上ぐらいしか景色良くないし。」
 これから向かう村がどんな村なのかを問うキルに平凡な村だよ、
と肩をすくめてみせる。
そういうものかとキルはロードクロサイトを見た。