「危ないチャーリー君!!」
キャシーの声で魔獣の爪を避けたチャーリーは数の多さに汗をぬぐった。
エリーはすでに2本目のダガーナイフを構えている。
掻き消えるように動くとそのまま魔獣の無防備な背中を狙い、背後からしとめる。
「数は多いが一匹一匹はそう強くない。ネティベル、全体回復魔法だ!!」
「わかってるわ!癒しの風よ、われらのキズを癒し、力を戻せ。リャオフェング【癒風】」
ネティベルの呪文により、一行は光に包まれ回復するがジュリアンはすぐに新たなキズを増やす。
「ジュリアンさん、一度下がって!!」
「っ!あのウシ乳の赤毛女に言われるままでいられません!
わたし、絶対下がりません!」
岸壁割り、と地面を殴りつけると地面が割れ、数匹の魔獣が飲み込まれる。
だが技の反動でたたらを踏み、襲い掛かる亀のような魔獣を避けることができず、
直撃を食らってしまった。
2撃目を間に割り込んだチャーリーが刀で受け止め、切り飛ばす。
「ジュリアンさん、無理ですよ。」
チャーリーの言葉に唇をかみ締め頷く。
「風と戯れ 風を吹く その姿は可憐であれど 美しきその羽の
生み出す風は疾風の如し
戦いを疎みし彼の者は 時として悪戯に目を輝かせる その美しき名をアエロー」
魔法により反響した声が聞こえ、アイアンが舞う。
眩い光が消えると同時に美しい羽を持った半鳥半人の女性が姿を現した。
アエローは羽を羽ばたかせると一度に10数匹の魔獣を吹き飛ばし消し去る。
基本的に召喚術で出したものは一番強い攻撃、もしくは回復を行うとすぐに消えてしまう。
アエローも例外ではなくすぐに数枚の羽を散らし消え去った。
続いてすぐさま別の歌を歌い火の精霊イフリートを呼び出す。
灼熱の炎で魔獣をなぎ払うが、途中でゆらりと掻き消えるように消えてしまった。
上級精霊を呼び出したためにジミーの魔力が尽きてしまったのだ。
無防備になるジミーにすかさずネティベルが駆け寄り結界を張る。
「ジミー、大丈夫?」
「……。………。…。………。」
「ジミーくんが、じぶんはしょうかんじゅっちゅすだからがんばらなきゃって。
でもいまはまりょくがたりないから、かいふくするまでごめんなさい、
っていってるよ。」
ネティベルの気遣う言葉にジミーは頷く。
その言葉をアイアンが伝えるが、その内容はジミーが自分の本当の役割を知り、
受け入れたことをあらわしていた。
「ポリッター!何してるの!詠唱破棄で中級呪文ぶつけなさい!」
「はっはい!ヤンヤン【炎炎】」
眩しいほど明るい炎が魔獣の毛を焼き尽くす。
【…ガルーダ殿。】
不意に傍観者であるスバルナに念話が届き、彼と同調しているロードクロサイトらにも聞こえる。
【どうした?】
【めっさ怖いんですけどぉ!なにあの炎。毛を燃やすとか鬣なくなったら猫ですよ!
ただの猫ですよ!?キスケ様に危なくなったら逃げるよう言われましたけど…
もう逃げていいですか!?もうほっといてもいいじゃないですか!
ウェハースなんてその辺にほおって置けばいつか朽ちるでしょ!?
あぁ、もう怖い!!!】
ひー、と泣く声が聞こえスバルナは頭を抱える。
声の主はもちろんムファスカーだ。
【あいかわらずへたれているな…。】
【そのお声は魔王様!?あぁ、もう穴に埋まりたい。溝にはまりたい。
…もう少し頑張ります…。】
ロードクロサイトの声にうわ〜んと泣きながら念話が途絶え、
ロードクロサイトとキル、そしてスバルナは大きくため息をつく。
「よくあれで陸部隊を纏められるな…。」
「…纏めているといいますか…。その幹部クラスはみな面白がって
からかって遊んでいるだけです。それでてんぱるのを楽しんだ後、
しっかりサポートしていると言う・・・。あそこの幹部らはドS集団ですからね。」
どちらかというと部隊の下位を除いた全員が擁護しているのだという。
海の部隊を率いているドルイドンとは大違いだ、と呟くと再びスバルナの目と同調した。
ポリッターの唱える炎にたじろぐ魔獣だが、
やがて炎をまとった魔獣や、鎧と見間違えるほど重々しい鱗を持ったものなどが前に進み出ると今度はポリッターに焦りが見えた。
すぐさま風の魔法を唱えるがやはり効かない。
複合魔法である雷を打ち込むとようやくダメージが見られたが、
すでにポリッターの魔力も残りわずかとなってしまった。
「しかたないわ…ポリッター!下がりなさい!一度体勢を整えるのよ!」
ネティベルは結界を張る力を強めるとすぐさま手当てをほどこす。
魔力だけは自分で休んでもらわなければならないが、体力やキズは彼女が治す。
一通り終えると結界の外を見た。
自分が戦えばまだ減らせるかもしれないが、
それでは回復が出来なくなってしまう上に、
強度を考え張った結界は自分が出てはならない種類のもの。
疲労の色が見える一行を外に出すわけには行かない。
まだ無事なチャーリーとエリーはすぐさま戻り今も外で戦闘を続けている。
「こんなことならもっと回復薬かっとくんだったわ…。」
どうにか突破口を・・・と視線をめぐらせるとすぐ脇を何かが通り過ぎ、
慌てて目で追う。
銀色の閃光が瞬く間に魔獣の群れへと消えていった。
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