大きな蛇と対峙していたチャーリーは四方から来たあの強靭な鱗を持つ、
人の背丈ほどあるトカゲに似た魔獣に苦戦していた。
背後から来る牙に反応が遅れ、急いで防御の姿勢をとる。
だが衝撃もなにもなく、魔獣の悲鳴のような泣き声が聞こえるのみ。
「まったく。レベル差ありすぎ。そして魔力配分皆へたくそだなぁ…。」
突然聞こえた声にチャーリーは弾ける様に防御を解き、目の前に現れたローズを見た。
いつものような旅人の服に布のズボンの姿。防具は見当たらない。
だが間近では見たことのなかった剣を抜き、魔獣を両断している姿は初めてみるものだ。
「ほら、ぼけっとしてないで。技とか使えないの?」
「え!?えぇっと…。溜めないと硬いのは切れないので…。」
銀髪を揺らし、振り向くローズにチャーリーはあわてて首を振る。
「ふ〜ん…。数こなさないとだめかぁ…。」
う〜〜ん、というローズに首を傾げるがすぐさま魔獣に集中する。
「あ、そうそう。僕も昔君の祖父、ソーズマンにあって技教えてもらったんだ。
確か…切り刻め 疾風鎌鼬!」
手を持ち替え構えると同時に、目の前に迫った魔獣に向かって剣を振り上げる。
左から右への動作に、いつの間にかまとっていた風がその後を追い、
鎌鼬の姿となって敵を切り刻んだ。
「その技は…。」
「僕があの一行と偶然であったときにね。溜めてないだろ?コツをつかめば出来るよ。」
チャーリーを振り向き、無造作に剣を振るう。
すると囲っていた魔獣は傷こそ浅いが一斉に吹き飛ばされうめき声を上げた。
「すごい…。」
「戦闘自体の経験が違うからね。悪いけど、僕これでも73レベルだよ?
チャーリー君、76でしょ?
つまり、レベルだけ上がって戦闘スキルが全然あってないってこと。
…右上からと左横から来るよ。」
ローズの言葉にチャーリーは思わず刀の柄を握り締めるが、
ローズに腕を引かれ襲い掛かってきた魔獣の攻撃をかわす。
直前まで気がつかなかったことに愕然とするが軽く押され、
下がると目の前に大蛇の牙が現れた。
はっとわれに返るとその大蛇を切り捨て、体制を整える。
「目なんて曖昧なもの信じないで、気配と殺気。それだけで身体を動かさないと。
でかいのが来るね…地中を移動してここに向かってる。わかるだろう?」
「少しですけど…。貴方は一体…。」
問いかけようとするが足元からの気配に慌てて飛びのく。
地面から姿を現したのは一角のらせん状になった角を持ち、
姿はしいて言えば大熊のような魔獣だった。
見かけによらずすばやい魔獣に攻撃をかわし続ける。
「だめだよチャーリー君。
逃げてばかりじゃあこいつより先に体力がなくなっちゃうだろ?
こういう敵はこうしないと。」
足元と熊の手に気を取られていたチャーリーだが、
すぐ脇をローズが通り過ぎ熊に向かっていることに気がつくと慌てて呼び止めようとする。
だが、伸ばしかけた手はその光景に思わず固まってしまった。
ローズは熊の繰り出す攻撃を至近距離でくるくると回りつつ回避していた。
それも流れるような動きでかすりさえしていない。
たとえるなら一本の羽毛のようにとらえどころがない。
手に持った剣でかわした腕を切りつけ空いた胴にけりを入れる。
まったく自分とはレベルの違う動きに思わず手を止め見入る。
すると突然何かにつかまれ引き倒される。
「これぐらい出来ないと…神山の試練で死ぬよ?」
いつの間にか戻ってきたローズが剣を払うと、
元いた場所には魔獣が2匹折り重なるように倒れていた。
先ほど相手をしていた魔獣も手傷を負い倒れる。
「それにしてもだいぶ腕鈍ったなぁ…。あの馬鹿のせいで長い間体動かせなかったし。
まぁ…これぐらいなら大丈夫かな?」
ハンデハンデ、と左手についた血を舐める。
普段の戦闘では篭手を巻いている二の腕だが、今は旅人が一般的に着る布の服のため袖がない。
べったりと赤く染まった腕にため息を吐くと軽く振り握る。
「ご飯食べるのにきついなぁ…。」
「あっ…ぁぇっだっだっ大丈夫ですか!?もしかして今僕を引っ張ったときに…。」
慌てて立ち上がったチャーリーは魔獣を見るローズの腕をつかみ、心配げに見る。
「いっ〜〜〜!!!!!」
「あっ!!ごめんなさい!!大丈夫ですか!?」
悶絶するローズに慌てて手を離すと回復魔法を唱えた。
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