気絶したフリをしているローズには気がつかず、チャーリーは必死に魔獣を切り捨てる。
ふいに背後に気配を感じ、振り向くと今にもローズに噛み付こうとしている…
ように見える獅子に気がつき剣を振るった。
慌てて離れるムファスカーだが、ローズは気絶しているフリをしているため首に滴り落ちた液を拭えず、嫌な汗をかく。
後で絞める、と心に呟き、それを感じたのかムファスカーも冷や汗をかく。
が、すぐに首を振り気をとりなおした。
「貴様が天性の印を持つ勇者か。我名は魔王軍第3軍陸上隊隊長氷結の獅子ムファスカー。
 貴様の力量、測らせてもらおう!」
 ぶるりを身体を振り震わると全身が青白く染まり、鬣が氷の結晶へと姿を変える。
牙をも氷で覆わせ伸ばすと水色の瞳を細めた。
氷の鞭となった尾で地面をたたくと地面が凍り、体の回りの空気がきらきらと光る。
間にローズを入れたまま対峙するチャーリーだが、その寒さに身体を震わせた。
「僕が勇者!?なにを勘違いしているのかわかりませんが、
 全力で相手させてもらいます!」
 剣に炎をまとわせ構える。
そのためローズにとって前は暑く、背は寒いという状況になり風邪引きそう、
とひっそりため息を吐く。
現に少し身体がだるく熱っぽい。
「骨の髄まで凍りつくがいい!!ダイアモンドダストブレス【細氷霧吐息】!」
 ムファスカーは大きく息を吸い込むと、氷の粒を交えた絶対零度に近い息を吐き出した。
 
 さすがのローズもこれは不味いと焦るが熱風が吹き、
これもこれで不味いと冷や汗をかく。
いっそのこと気絶したフリをといて逃げようかとも考えるが、
チャーリーレベルアップのため動くに動けない。
 今、チャーリーは勇者の性であり本能である“護る”というのに従い気絶したローズを護るために集中しているのだ。
ふと、ベルフェゴはどこに行ったのだろうかと気配を探る。
すると戦いの場から少しはなれたところでじっと待っていた。
あんだけ言ったのにまだ懲りてないのか、とローズは現実逃避するように考え始めた。
だが、すぐさま現状を思い出させられる。
 
背中は極寒。
前は灼熱。
 
 どうするすべもなく、ただ祈るのは二人とも離れて欲しいということだけ。
本格的に温度差で具合が悪くなり、演技でなく体がだるくなっていった。
 
 
「あれは…温度差で具合が悪くなったか?」
「ですね。なんといいますか…。こちらから見てて生気がないといいますか…。
 ある意味自業自得でしょうけど。」
 ぐったりとした様子のローズにロードクロサイトは見事言い当て、
キルは明日明後日チャーリーを襲う筋肉痛の代価でいいんじゃないかと、
呆れた様子で言う。
【本当にジキタリス様はお体が弱いのですね。】
【そのかわりこじらせなければ治りは早い。
 まぁ今は特に心配しなくともプリーストがいるからな。
 味はともかく、効果はかなり高い。】
 心配げに呟くスバルナに大丈夫だろう、とこともなげにロードクロサイトは言う。
プリーストとは?と、聞き返すスバルナだが聞かれたロードクロサイトはしばらく考える。
最初から説明するのも正直めんどくさい。
【ローズの…幼馴染の天界人で…だ。】
 ローズを追いかけて人から天界人になったことや、
元仲間の白魔道師というのを説明するのが長いと、間違ってはいない紹介をする。
【天界人ですか!?】
【あ、元人間で、師匠様の昔の仲間。
 どうも…師匠様もといジキタリス様のことを好きらしいですが、
 本人はあぁなん…あ…凍った。とおもったら燃えた。】
 驚くスバルナにキルが説明をしかけ、間に挟まれたローズの様子に大丈夫かな?
とあまり心配はしていない。