ノーブリーはさっさと仕事を済ませ、定時にはタマモが残していた仕事すらも片付け自宅へと帰った。
「おかえりなさい。今日はどうでしたか?」
 出迎えてくれたのはスタイル・顔・性格ともに満点だと言われる額に短い角を2本生やした女性…
ノーブリー=ラセツ=シヴァル、彼の母であり鬼一族の頂点に立つ本家の長女だ。
「ただいま。ようやく四天王策士の座が埋まるそうで…母さん、夜ご飯は何?」
 帰宅早々定時とはいえ夕餉にはやや遅い時間。
育ち盛りの息子は少年の歳相応の笑顔で母のそばによる。
 
「キルの好きなものですよ。さぁ、手を洗ったら食事にしなさい。」
 キルは頷くとパタパタと廊下を走り夕餉を楽しみにする。
職場では考えられない行動だが、やはり魔界人としてはまだまだ子供。
家ではその子供らしさを全開にしのびのびとリラックスしていた。
 
 
「そういえば…まだ帰ってないんです?」
「えぇ。今日はホッドミミルでの治安が悪いということで戦場にいってしまいましたよ。」
 戦場でも常に先頭を行くジキタリス軍にいる父は、たびたび家宝である魔剣を携えでむくことがあった。
…戦歴はあまりよろしくは無いが。
「そうですか。また余計なことをしていなければいいですが・・。」
 前回詳しいことは不明だがジキタリス本人を怒らせたということでわざわざ妻であるシヴァルが出向き謝罪したことは記憶に新しい。
「いけませんよ、キル。お仕事なのですから失敗もあるでしょう。それに父のことを軽視するのはよくありません。」
 微笑みながら軽く息子をたしなめるとキルは小さくごめんなさいという。
あまり大きい声では言えないが何故自分の父とこのやさしく、評判も良くすべてにおいて心も外見も美しい母が一緒にいるのだろうかとキルは常々思っていた。
何をしてもだめ。
首にならないのはひとえに鬼一族の婿養子であるからとしか考えられない。
仕事の悩みに加え、父のことでも悩むキルはため息をついた。