翌日の晩
遠くに出ている一部を除いて全軍が儀式の間に集結した。
その中にはもちろんキルの知り合いも多々見え、何かと世話を焼いてくれた年上の部下たちが皆感激の涙を流す。
まるでわが子の成長に感動したかのような光景にキルは苦笑しつつ照れる。
ふと目を移せば母の親戚。
つまり鬼一族が参列していた。
父親については当然のごとく反対し、産まれたばかりのキルにも冷たくあたり…。
キルが一族一の頭脳と実力を持ち、あっという間に魔王軍の傘下に入った時には半鬼半剣士だというのに次期当主候補にあげられ、早くも許嫁の縁談も組まれている。
まだ若いということで決定してはいないが、一族初めての四天王出世ということでそれは確定事項であろう。
現当主である彼の祖父は厳格そうな鬼の顔に涙を浮かべ喜ぶ有様。
やはり父を呼ばなくて正解だとキルは息を吐く。
父方の親戚もいたが、あんな雑巾みたいな父とはまったく違い凄みのある渋顔の祖父やふっくらとした丸みのある顔をした祖母。
そしていずれも有名な剣士ばかりの親戚の中には魔界で半ば伝説化している剣豪の顔すらある。
父以外は皆、母の親戚とも仲がよく評判も良い。
駄目なのはあれだけだ。
「我が名はロードクロサイト。人神に背き、魔神に忠誠を誓いし者。今宵此処に我が僕を束ねし4つ頭に彼の者任命す。彼の者名をキル。此処に誓いのしるしを。」
儀式用の衣装を身にまとい、魔界の神がいるとされる御簾の御許で儀式は進む。
呼ばれたキルは静かに着慣れない鬼一族の儀式に着る衣装を身にまとい、御簾に一礼しそのままロードクロサイトの元に跪く。
「我が力と彼の力、尊き神に捧げ。忠誠に血を御前に。」
ロードクロサイトは自分の髪を一掴みと血を祭壇に捧げ、キルも同様に髪を一掴みと首元から剣先に血をとり捧げる。
その後、魔王にしか伝わらない長い失われた太古の言葉が並べられ、祭壇の供物が黒い炎となって御簾と共に消えた。
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