「へ?キルも料理?」
次の日、師匠を訪ねたキルにローズは驚いたようにそっぽを向くキルを見る。
「その…たまには母に感謝の気持ちをと…。料理でなくてもいいですが…。」
照れ恥ずかしさで師匠の顔が見れないキルにローズはどうしたものか、と考えていた。
キルの体に半分流れる魔剣士の血。
女性は普通に料理ができるのだが、なぜか男どもはレシピ通りに作ってもなんか変なものができるほどの腕前だ。
現にキルも皮むきを頼んだところとんでもなく小さくなったジャガイモやら、ニンジンやらが渡され短剣の腕はいいはずなのになんでだろうかと首をかしげたこともあった。
「そうだねぇ…。料理…。よし、料理特訓してあげるよ。後ついでに、小物作りもしてみようか。それなら特訓は必要ないし、いつでも試作品作れるし。」
万が一に備え、予備を作った方がいいと考えたローズの提案にそれもいいですね、とキルはのる。
それなら仕事中にタマモとかに聞いてもよさそうだ。
「まずは…斬り方かな。食材で特訓もいいけど、まずはこの食用に適さない問題ありなのでやろうか。収穫が遅れて硬くてでかいきゅうりと…熟す前に風で根元から折れてどうしようもないトマト。それに地面に出ちゃって緑になったジャガイモ。これなら無駄にならない。」
さて、と並んだ変な食材にキルは首をかしげる。
てっきり夕食の下ごしらえを手伝うのかと思えばまさかの食べれないものでの練習。
そこまで自分はひどいのか、とやや不満げにトマトを手に取った。
せっせせっせと師匠が動いているのに気がつき、キルは手に取っていたトマトから目を放す。
雑巾を片手に壁やら天井やらを拭くローズはどうしたものかと、バケツに入れたトマトだったものに目を留めた。
まぁ潰したりするのにはいいかもしれない。
そもそもなぜナイフを手にとってトマトが粉砕する。
まったくもって意味がわからない。
「トマトは柔らかいから後にしようか…。キュウリの切り方は…蔕の部分だけ最初に斬って…。そうそう。で、斜めに斬る。そのほかのことは全く考えなくていいから。」
料理音痴とかそういうレベルじゃない、と後始末を終えたローズはキュウリを手に取るとキルの背後からナイフを持った手を握り斬り方を教える。
なぜかまっすぐ切っているはずなのにときどき妙に横にそれようとする力はなんなのだろうかと、キルの手をしっかりと握りひたすらまっすぐ斬る事だけに集中させた。
「ねぇ、なんでこうも簡単なことなのに変な方向にきろうとするわけ?」
「そういうつもりではないんですけど…。」
ようやく一本切り終え、ローズはこの調子で、と手を放す。
さっそく一本手に取り斬り始めたキルの手元からローズの目元に塊が飛んできたのは言うまでもない。
う〜〜んと唸るローズは用意していた練習材料が全て粉砕されたことに腕を組み、落ち込む弟子を目に入れる。
どちらかといえば落ち込みたいのは自分なのだが、弟子が可哀そうすぎる。
「う〜〜ん…ん?もしかして…。キル、これ切ってもらっていい?」
「え…。でっでも上手くきれなくて…。」
そうだそうだ、と食糧庫から肉の塊を出すローズに、暗殺などは得意でも料理ができない、と落ち込むキルは首を振る。
「今日の食材。セイも食べるから今日は付き猫入れて40人だから、分量間違えないでね。一口大でよろしく。僕ちょっと用事があるから…斬らないでおくとそのまま煮るよ。」
「えぇ!?しっ師匠!!うわぁ…。」
口早に用件を言うと瞬きと共に消える師匠にキルは焦るが、すでに姿はない。
慌てて念話を送るがどうやら閉ざしているらしく返答はない。
責任重大だと焦るキルだが、付き猫であるシャムリンらに泣きついては四天王の名折れ…。
意を決して包丁を手に取ると斬りやすいように肉を解体する。
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