「やっぱり…。肉類は斬り慣れているか。そうだろうと思ったよ。」
 綺麗に小分けされた肉にローズはほっとしたかのように声を上げた。
ちょっと自信がついた顔のキルはできました!と目を輝かせる。
「あれだ。切り方と力の加減のせいだろうね。カレー作るから材料切るの手伝って。」
 教育上にものすごく悪いな、と内心呟くローズはとりあえず肉は任せて大丈夫というのを心にとめ、他の食材を渡す。
「肉と違うからしっかり押さえて…そうそう。指切らないように指を丸めてね。ゆっくり力を込めて…あ、そうそう。そんな感じ。同じ食材ならその力加減で大丈夫。はじめての食材は滑らないように気をつけながらゆっくりでね。僕は米砥ぎしてるから…終わったら声かけて。」
 ようやく力加減がわかったキルに笑いかけるとローズは大きな釜に入れた米を研ぎ始める。
 
人参、ジャガイモ…トマト。
「これもきるんですか?」
「うん?あぁ、猫又と大犬はネギ系だめだから玉ねぎ使えなくて。林檎はすりおろして使うからちょっと置いといて。桃も切り方変わるのと、種があって普通に切るのは危ないから置いといて。」
 手に持った赤い果実と桃色の果実に首をかしげるキルは40合の米と格闘するローズの背中を見た。
食事を作るときは毎回これを一人でやっているのかと感心するキルはせめてと水のせいで赤くなったローズの手から釜をとり、見よう見まねで洗う。
「ありがとう。いつもは洗ったのがあるんだけど…ミッケが買い間違えちゃって。助かるよ。」
 あと一回すすぐだけ、というローズにキルは軽々と持ち上げると米を流さないように水をきる。
さすが鬼、と内心呟くローズは弟子が軽々と持てたことに軽く心にダメージが加わるが、必死に鬼だから!鬼だから!!と自分に言い聞かせた。
 水を入れると火にかけ、キルに林檎の皮むきとと桃の剥き方を教える。
「桃はここから固い感触のあるところまで刃を入れて、ぐるっと一周切れ目を入れて…。で、両手で持って、軽く回すと…はい。真っ二つ。」
「へぇ…こうやってやる方法もあるんですね…。」
 物によって違うのか、と見よう見まねで柔らかい桃を剥くと適度な大きさに切る。
 
 
 大きな鍋に少量の油とにんにくを入れる師匠のそばに行く。
 猫又達が使えるようにできているこのキッチンは、コンロの位置がやや低い。
それでも踏み台を使わなければ中が覗けないキルはいつか師匠を見上げるじゃなくてこんな風に見降ろしてやる、と踏み台でややローズより高くなった視界に密かに思う。
 そんな弟子の心知らずなローズは火が通りにくい順に具材を入れていくと、大きなしゃもじでかき混ぜる。
「ある程度火が通ったら水を入れるよ。で、火は最小限に抑えて蓋をする。」
 まぁ、煮るからそこまで気にしなくていいよ、というローズは水の入った樽を持ち上げると、栓を抜き、鍋の中ほどまで水を入れた。
「今日はカレーだけど、ここまでの工程でシチューにすることもできるから覚えとくといいよ。」
「なるほど…。ちょっと具材を変えてもシチュー類はこうやって作るんですね。」
 なるほど、ととりあえずここまでの工程をすべてメモに取る。
その様子を見ていたローズは魔剣士一族が何で教えてもできないのは、メモをきちんと取ってないからじゃと考える。
後で一応採点しとくか、と普段2軍がどのように情報をまとめているのかということにも興味を持つ。
 
 スパイスの調合に至っては感覚で作っているため、ローズは悩んだように首をかしげた。
「これは…おいおいかな。こればっかりは僕も感覚で作ってるからねぇ…。その日にある香辛料の風味とかで微妙に変えてるし…。」
「使い方を教えていただければ…なんとかやってみます。」
 どうしたものか、と考えるローズだがキルは様々な形状をした香辛料に興味を持ち師匠にスパイスの教えを請う。
「僕も詳しいわけじゃないけど…。じゃあターメリックは…」
 ローズの説明に追いつけとばかりにキルは師匠の手元に注目しつつメモをとる。