一人、ナギリーだけが当たりを引いたらしく特に顔色は変えていない。
「何味だったの?」
あの味を思い出し、顔をしかめるネティベルはイチイに声をかけた。
「醗酵させたニシンの缶詰…。」
「吐き出してきなさい。」
顔を青ざめ、震える弟に言う姉は臭いが口から出る前に外で捨ててきなさいという。
頷き、部屋を出て行くイチイにドリアン味だったセスは痛ましいものを見る目で見送った。
「何味だった?」
平気な顔で飴を舐めるナギリーは顔をしかめる息子を覗き込んだ。
「苦瓜……。僕嫌いなのに…。」
「ナギリー。お前は何だったんだ?」
賢者から頂いたもの…と一生懸命食べるポリッターだが、
ネティベルの行ってきなさいという目に頷き、部屋を出て行く。
残された女性にヴォルトが声をかけるとゆっくりと舐めるナギリーは小首をかしげ、
小さく頷いた。
「生のレバー。」
果たして飴の味として正解なのか、どうなのか…。
ちなみに商品化しようと言うアルダを全力で止めたのは
なぜか2つも食べることになってしまったセスらしい。
「そのキャンディーはさておき、なにがどーすんのよ。
ヴォルトといい、あの馬鹿と言い、アホといい。」
やれやれ、とため息を吐くネティベルは、
セスから口直しのミントキャンディーを受け取る二人に目をとめ、
アルダに問いかける。
「そうじゃなぁ。ヴォルトの犯罪歴は目を瞑れるほど少なくはないのじゃが……
魔道具に関してはエキスパートじゃからのぅ……。
ナギリーはなかなかの腕を持つ白魔道師じゃし。どうしたものかのう。
のうオウリアンダー。」
悪戯を思いついたように目を輝かせつつ、
それを隠そうとウィンクするアルダにネティベルは無言で呆れ顔となった。
もう大体想像はついた。
この老人がこの顔をするときは十中八九…いや確実にしょーもないことをたくらんでいる時だ。
「ポリッター君。君は中々素質があるようじゃし、黒魔道を其処にいるイチイに。
それから…ちょっと補助系の魔法について学んでみたいと思うじゃろ?
それをこのネティベルに教えてもらうんじゃよ。」
にこにこと笑うアルダにポリッターは嬉しそうに頷き、
目を輝かせながら二人を見上げる。
「「はぁ!?」」
思わず固まってしまった2人だが、いやいや。それおかしくない?
と口をそろえて首を振った。
だが、わが道を行く…というか道をガンガン無視して突破していくのがこのアルダ。
「で、そうじゃな……。ナギリーは僧侶らに白魔道というか、
緊急時の応急処置などを教えてもらいたいんじゃ。
ヴォルトは元々何魔道師か忘れるほど白黒ともに腕だけはよい。
じゃからイチイとセスの監視の下、賢者になるのじゃ。
これなら皆、仲良くできるじゃろ?」
にこにことさも名案をいたっとばかりにすがすがしい顔のアルダ。
賢者になってから手放せなくなった頭痛と胃の薬を飲むセスは大きく深呼吸をした。
落ち着こう。
そう自分に言い聞かせているかのようだ。
「貴方だけ何もないじゃないですか!!!
どれほど不公平なことをいっているかわかりますか!!
まったくそうやっていっつもいっつも我々だけを引っ掻き回して自分は高みの見物…。
いい加減にしてもらいたい!!
いっそのこそヴァッカーノ国に行き、5年ほど過ごしてもらいたいものですな!!」
青筋を浮かべ、怒鳴るセスだが、怒られている本人はどこ吹く風。
静かにぶちりと音を立てたのはヴォルトだ。
静かに魔力を増幅させる石のついた杖を取り出し、握った手から魔力を込めていく。
「腕だけは良いとはどういうことだ!!!」
そこかよ。ネティベルの心の突っ込みがはいるが、聞こえるはずもなく…。
ふと、ポリッターが自分を見上げキラキラと目を輝かせたままになっていることに目をとめ、
夫を止める様子もないナギリーと魔道師達がすがりつくヴォルト…
そしてセスを全力で抑えるイチイに目をとめた。
「国外に出てもいいなら私はいいわよ。あちらこちら旅していいならね。」
「おお。承知してくれるか。じゃが、1年ほどはイチイと一緒に
黒魔道を教えて上げて欲しいんじゃ。
後はポリッター君の才能を伸ばせるだけ旅に出ても構わないぞ。」
賢者になる以前から旅をしたいと申請していたネティベルは、それでいいならと承諾し、
アルダは嬉しそうに頷いた。
野放しにすると面倒だから、と言うアルダの一言により、
口をつぐんだ各魔道師達はふてぶてしい態度の男に目を向け、
賢者ということをしぶしぶ認める。
本音では何で犯罪者なんかを…と思うが実際の罪状を知っているもの達はまぁ、
それでおとなしくなるならと黙認した。
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