怒りが収まらず、暴れ続けるセイは突然目の前に現れた軍勢に一瞬ひるみ、
すぐさま牙をむく。
統制は取れているが、所詮ドラゴンの敵ではない。
尾で払い、水と風を混ぜた渦のブレスで吹きとばす。
『渦のドラゴン…まだ若いドラゴンか。面白い…。本気で掛かって来い。』
一掃したところで青い髪の男…吸血鬼が赤い目を楽しげに光らせ大きな魔鎌を構える。
汚らわしい共通語で話され、セイは男の挑発に乗るがままに襲い掛かった。
『魔王様!?』
銀色の髪をした若い青年と思われる影が目の端で見えたが、
魔王と呼ばれた男の繰り出す蹴りを弾き、
水かきの付いた前脚の爪を振るい魔王の構えた鎌を押さえつける。
全力で押さえ込むがそれをドラゴンにとっては小型でしかない鎌で支え、
その場に立ち続ける魔王にセイはわずかに動揺する。
最強の生物と呼ばれているドラゴンである自覚も自身もある。
それをこの細身の男が鎌ひとつで抑え、拮抗するとはありえない。
『どうした?それで本気か?』
笑う声にプライドを傷つけられ、横から尾で殴りつける。
軽々避けられ、鎌をはらうと一直線に懐へ飛び込んできた。
咄嗟に掲げた前脚をきりつける刃に愕然とする。
斬激の効かない鱗の筈がその鱗ごと腕に切り傷ができたのだ。
驚きで逃げるのを魔王と先ほどの銀髪が率いる一団が追いかけ、セイは必死に逃げた。
ドラゴンである自分を属性攻撃以外でダメージを与える武器…。
まったく予想していなかった攻撃に驚き、身の危険を肌に感じていた。
逃げたのは毒水と化した湖の畔。
身を震わせ、思い出したかのように毒のダメージでふら付く身体を支え、
鎌を構えている魔王を見つめた。
あの鎌で切り裂かれる、と恐怖する目の前に小柄な銀髪が魔王との間に現れる。
『魔王様、待ってください!このドラゴン…手負いです。』
『手負い?あぁ、確かに…。この湖に住んでいたのか。』
銀髪の青年は止めを刺そうとした魔王を抑え、傍に来る。
警戒し、唸るセイに青年はあぁ、と剣を外し防具である籠手と脛当てを外す。
『丸腰だからすこし警戒といてもらってもいいかな?怪我の具合見るから。』
ね?、という青年にセイは目を細め、近づく姿を目に入れた。
そっと傷に触れる青年に反射的に腕を払う。
『ジキタリス様!!』
『大丈夫…。大丈夫だから。』
爪が当たり、銀色の髪を赤く染めた青年は駆け寄ろうとした魔界人達を手で制すると、
警戒するセイに大丈夫、と笑って怪我をしていない身体に触れる。
『ここは…治癒呪文で大丈夫かな?フローラにきてもらえばよかったなぁ…。
あぁ、やっぱり怪我している。あの毒水に触れたんだね…随分膿んで…。
痛かっただろうに。少し我慢しててね。』
ジキタリスと呼ばれた青年はセイの身体についた傷を見ると、
傷口に顔をうずめ膿を吸い出す。
吐き出すものの中に膿が見えなくなると傷口に手をかざし治癒呪文を唱える。
もともと再生能力が高いドラゴンだが暖かな光に、
セイは警戒していた身体から力を抜いていった。
『これでいいかな?まだ激しく動くと傷が開くと思うけど…。
何か巻くことができればよかったんだけどごめんね。
君の身体じゃ大きすぎてとてもじゃないけど巻くことができないんだ。』
暴れなかったことになだめる様に撫でる手は小さく、
ほんのわずかな感触しかないがそれでもセイにとってはドラゴンである自分を恐れず、
皮や血などを狙う風でもないジキタリスに感謝していた。
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