手に掛かる重みにセイは目を瞬かせた。
あんなに小さいと思っていた身体がとても近い。
抱きとめていた手を見たセイは思わず目を見開いた。
(これは…人型?)
呟いた言葉はのどが動かず、掠れた声が出たのみ。
いつの間にかまとっていた薄布の服をなびかせ、ジキタリスを湖畔へと運ぶ。
「化身化か…。というか女だったのか。」
(大丈夫?毒が皮膚から入った?)
 声を出しているつもりが声にならない音しか口から出ない。
以前のゴブリン以来話していなかった共通語を思うように発音することができない。
「毒なら大丈夫だな。ローズ、立てるか?」
「少しは解毒の魔法ぐらい…。あぁ、ありがとう…。
 まさかあそこで意識を失いかけるなんて思わなかったんだ。」
 魔王の言葉に目を開けたジキタリスは、
自分を抱きとめる姿を目に入れるとごめんね、と笑う。
「あ…ありが…とう。わ…たし…はセイ…。ここ…住んで…。」
 なんとか言葉を繋ぐとジキタリスはもう大丈夫、
と起き上がり自分より背の高い女性を向かい合った。
「無理しなくていいよ。もう大丈夫だね。」
 
「お…お礼したい。あっあの…ついて行っても…いい…?」
 恩返しがしたいというセイにジキタリスは魔王と顔を見合わせた。
「まぁ…軍に所属すれば城にいても変ではないだろう。」
「承知しました。じゃあ…僕の屋敷に来る?
 言葉とか慣れてからじゃないと大変だろうし…。でもいいの?
 長年すんでたここを離れちゃって。」
 許可を取るジキタリスは魔王に向かって跪くとセイと湖を見比べる。
セイは首を振ると湖を見て、ジキタリスの眼を見つめた。
「行く…。あ…貴方の眼…。眼が…湖の色だから…大…丈夫。
 キラキラ…してて…満月の夜見たい…。」
 だからさびしくない、というセイの言葉にジキタリスは面を食らった顔をする。
徐々に顔を赤くすると照れたように頭をかき、はにかむ様に微笑む。