一行が食べ終わるとフェンリはさっさとネコ耳の女性らに片づけを命じ、
残った一食分をみると、食堂に響くかのように大きな舌打ちをした。
「あんの若づくり。」
 ぶつぶつと呟くフェンリは、その残っていた皿さえも片付けさせる。
一行を部屋へと案内するとフェンリはあくびをかみ殺し、さっさと自室に戻ってしまった。
「本当にいつも通りがあれみたいだね…。」
 閉じた扉を見つつ、困惑気に声を出すピスケスはサジタリウスと顔を見合わせる。
「ま、とりあえずタダなんだし、寝よ寝よ。ただの宿と思えばすっごく得した気分だし。」
 魔法の使い過ぎでつかれたというサジタリウスは、奥の寝台がある部屋へと消え、ピスケスもそれに倣う。
残されたキャンサーとアリエスも顔を見合わせると寝室へと入って行った。
 
 
 翌朝、目が覚めると見慣れない部屋と、宿屋ではない装飾品に寝ぼけ眼のアリエスは今どこにいるのか、しばしぼんやりとする頭を動かせた。
 慌てて手の甲を見ればやはりある謎の紋様。
夢じゃなかったことに大きく溜息を吐くと伸びをした。
 一行が起きたころを見計らう様に、迎えに来たフェンリに従って食堂に向かう。
そこにはやはりげんなりした様子の魔王が不機嫌そうに座っていた。
「それで、その師匠とやらはどこにいるんだ?」
 先に済ませていたらしいアクアリウスは朝食を取り終えたピスケスに目を向ける。
腕を組み、悩むピスケスにサジタリウスは鼻で笑った。
「師匠のいる場所を明確に知っているの師匠だけ。
 5年間探しまわった挙句、隣にいつの間にか引っ越してきていたという話だってあるんだし、
 探そうって探して見つかるわけがない。何の得にもなりゃしないよ。」
「そうだけど…。まぁ…多分来た道戻っていれば情報収集できるかなーって…思うかなー?」
 同郷のサジタリウスの言葉にピスケスもうんうんと頷く。
頷かれては困る魔王と勇者だが頼れる相手が他にいない。
 
 
「フェンリ、何かあればすぐに呼べ。特に…」
「はい。常時定期連絡は送りますので安心してとっとと行ってきてください。」
 旅装束に身を包むアクアリウスにフェンリはいつも通りの口調で応対する。
苦笑するアクアリウスだが、もう慣れたのか諦めたのか頼んだぞ、という言葉だけを残し一行の後を追った。