まず一行が向かったのは数週間ほど前に通り過ぎたという山奥の小さな村。
「ここで俺ら子供をさらうゴブリンを倒したんだったよな。あれからどうなっただろう?」
「確か…私達が戦っているすきに子供達を助けにいて、安心して眠ってるって言ってたんだよね。」
 あれはなかなか強かった。というアリエスにピスケスも頷いてその時のことを思い出した。
その言葉にアクアリウスは小さく溜息をつく。
「魔物同士こういう話苦手なのか?」
 城を出てから黙々と歩くアクアリウスのため息にキャンサーが振り返る。
別に、というアクアリウスはその時の様子を話すアリエスとピスケス、サジタリウスに目を向けた。
「浅はかな正義感が時に大迷惑だということを知らんのだなと思っただけだ。」
「どういう意味だ?」
 黒いローブで顔を隠すアクアリウスの言葉にキャンサーは首をかしげる。
アリエスらよりは背の高いアクアリウスは、それよりも高い位置にあるキャンサーの顔を仰ぎみた。
やや明るめの黄色い瞳がローブの中で光り、額に付けられた飾りがきらりと日を反射する。
「そのうちわかる。うわべだけの正義感は時に大きな犠牲を生む。
 それが何であるかわかってからでは遅いがな。」
 そう告げると聞こえたのか、サジタリウスが振り返り、眉を寄せた。
顔をローブに深く沈めるアクアリウスは遠くに見える山に目を向けた。
一行の話ではそこに村があるらしい。
 
 
 野宿するため、道から少し森に入ると体力のない魔導師2人組は眠り、
アリエスとキャンサーが先にどちらが見張るかを話し合う。
ふと、アリアスは木によりかかり空を見上げる魔王を見た。
「どうせ私は一晩中起きている。さっさと寝ていろ。」
 その視線に気がついたのか、アクアリウスは空から視線を下ろし不審げな目をする勇者と目を合わせた。
 
「キャンサー先寝てて。俺起きてるから。」
「あ…あぁ。わかった。」
 こいつに任せておけるかとばかりに睨みつけ、キャンサーを先に寝かせる。
そんなアリエスに、アクアリウスは眉を上げるだけで再び空へと視線を戻した。
 
 ぱちぱちと薪がはぜる音と虫の鳴き声だけが辺りを包み、アリエスは大きく欠伸をする。
魔王を見るとやはり先ほどの体制のまま空を見上げていた。
「何見てんの。今日は雲が多くて星なんて見えないじゃん。」
「雲が多くても空は空だ。久しぶりに外でこうしてのんびりしているからな…
 どんなものだったか見直しているだけだ。」
 仲間が起きないよう、小さな声だったが魔王の声も同じ様に静かに帰ってくる。
「あんた結構年齢いってると思うけど、嫁さんとかいんの?」
 翡翠の髪を風に揺らし、空を見上げる横顔アリエスは問う。
まさか子孫とかいたら面倒だ、と思うアリエスだったが、アクアリウスは何かを迷う様に少し間を開け、小さな声で答える。
「とっくに死んだ。…人間によってな。」
 風にまぎれるほどの声だったが、言葉少ないアクアリウスの返答にアリエスは思わず口をつぐんでしまった。
「そっか。わりぃ。」
 まさか魔王と旅に出ることになるとは思ってみなかったアリエスは、
うっかり暇つぶしにと聞いてしまった家庭事情にどうしたものかとため息つく。
「何を溜息をつく必要があるんだ?お前達人間にとっては別にどうでもいいことだろう。
 お前達の中にも魔物に殺された肉親がいるだろうし、それはお互い様だ。」
 今更気にしたところでどうにもならんだろう、というアクアリウスは空を仰いでいた頭を立てたひざの上にのせる。
「一晩中起きててやろうと思ったがめんどくさくなった。寝る。」
 気まずいなーと頭をかいていたアリエスは、その言葉を聞き返そうとして静かな寝息が聞こえたことに思わずかけようとした言葉を失った。