結局、キャンサーといつも通り朝方に交代したアリエスは昨晩ことを思い出す。
聞かなきゃよかったかなーとまた後悔が渦巻き、深々と溜息をついた。
「どうした?」
 強面ながら、かなり仲間想いなキャンサーが首をかしげ、アリエスは昨晩聞いてしまった話をぼそりと漏らす。
 そんな中、あまり昨晩のことを気にしていない風の魔王は、魔導師2人組による魔道の質問攻めにあっていた。
 
 
「闇の属性は究めれば強いが…それよりも炎属性などを上げた方が攻撃力は上がるな…。」
「じゃあさ、サポート系の水属性と草属性。これはどっちのほうが効果が高いと思う?」
 高齢で魔道に関しては精通している魔王に属性について質問するサジタリウス。
せっかくこうして旅に出ているんだから知識を得なきゃもったいないと、サジタリウスのもったいない精神がうずいているらしい。
 
「そうだな…。草属性は…」
「うぉぉぉおおおお!!!」
 考えるアクアリウスに背後から、突進まがいの体当たりが繰り出される。
驚いたらしい魔王は強面の顔が号泣しているのを見て顔をこわばらせた。
「嫁さんが人間に殺されたとか、そりゃ人間怨むよな!うわぁああああん!!
 俺は嫁さんしらねぇけどなんかもうごめんな!もうっうっうう…。」
 大声で泣き出すキャンサーは羽交い絞めしたままぐるぐるとその場を回りだし、
抑えつけられた魔王はなすすべもなくそのまま一緒に振り回される。
「いったいなんだ!下せ!」
「だってよぅ…悲しいじゃねぇかよ。」
 怒鳴るアクアリウスにキャンサーは雄たけびを上げて全く話が通じない。
舌打ちをするアクアリウスはシュルリと白い蛇の姿になり、キャンサーの腕から脱出した。
 
 
 少し距離を取って元の魔人型に戻るとずれたらしい額当てを直す。
「へぇ〜そうやって姿かえられるんだねぇー。」
「ということは伝承にあった通り千差万別の姿を持つのか…。面白いな!
 ただでそれができるなんて…。」
 興味深々な魔導師コンビにアクアリウスはまぁなと小さくつぶやく。
「吹き飛ばすぞ格闘家!人間の尺度に魔族の王である私をあてはめるな!!」
 声を荒げ、ぎろりと睨む姿はやはり魔王だけにかなりまがまがしい殺気を放っていた。
ぞくりと背筋を震わせるピスケスだったが、キャンサーはあまり気にしてないのか、いまだに強面の顔を崩して鼻をすすっっている。
すまねぇ、と目元を擦るキャンサーにアクアリウスは大きく溜息をはいた。
「キャンサーって…本当に涙もろいよな…」
 面白いけど、というアリエスをアクアリウスは睨み、この一行は疲れると肩を落とした。
 
ふと、そこへ大きなカマキリのような魔虫が姿を現し、一行へと威嚇をする。
 ちらりと目に入れるアクアリウスは興味がないように少し離れた石に腰かけ、やるならさっさとしろと手ぶりで表した。
 あっけなくキャンサーの拳で魔虫を倒すと立ち上がる魔王に視線が集まる。
「当り前だろう。私が戦いに参加してどうする。ばかばかしい。」
「いや、仮にも魔王だろ?いいのかよ。俺達が魔物殺しても。」
 戦闘には参加しない、というアクアリウスにアリエスはそうじゃないという。
魔物を統べる王…それが魔王のはず。
なのにそれを助けず、見ているだけというのは明らかに間違っているんじゃないか、
と勇者は複雑な気持ちで小さく溜息を吐く魔王の返事を待った。
「別に私は確かに魔王だが、なんだ?
 人間の王は全人種・全国民・全人類全てを統括しているのか?
 ちがうだろうが。私にも統べるものとそうじゃないものぐらいある。
 私が統べるのは地上ではせいぜい城下含めた範囲内ぐらいだ。
 魔界でも全てじゃない。一定の知性を持たない虫や獣となればなおのことだ」
 そんな広い範囲の魔物を全て統括できるものか、と呆れたようにいい放つ魔王。
そういうものなのだろうかと考えるが、きっとそうなんだろうと早々に考えるのを破棄するアリエス。
「まぁそんなわけで基本は戦いに参加しないが、お前たちじゃ明らかに無理な奴らなどくらいは手伝ってやる。」
 それ以外は見ているだけだ、とさっさと歩きだす。
「お前なんかに手伝ってもらわなくたって大丈夫だ!」
 魔王の言い草にカチンときたアリエスに続き、一行もゴブリンのいた村へと向かった。