ようやく目的の村にたどり着き、ピスケスとサジタリウスは入り口を守る門番の詰所へと入る。
 ほどなくして出てきた2人は不満げな顔で腕を交差させた。
どうやら師匠というのはここには立ち寄っていないらしい。
「しかたねぇさ!おれ達がここを立ち去った後すぐきたわけもねぇだろ。」
 最初からあまりあてにしてなかったし、というキャンサーに魔導師2人は確かに、と頷く。
「一応それらしい人を見かけたら大至急連絡が欲しいって伝えてもらうから…多分大丈夫かと…。」
「師匠はけっちいんだぞ。師匠はおいらたちに連絡取る道具があるのに、おいらたちから連絡する道具くれねぇんだもん。
 秘伝のなんとかだから数がないっていってる癖に壊れたらすぐ補充してんの。」
 ぶつぶつと文句を言うサジタリスにピスケスは苦笑する。
ひとまず宿を取り、以前助けた子供達の様子を見に行こうと4人は合意した。
 
 
 深夜遅く、膨らみかけた月の明かりに照らされる部屋。
水晶に目を落とすアクアリウスは小さく頬笑み、何かをつぶやく。
淡く輝く水晶から光が消え、月明かりを反射すると小さく溜息をつき、懐にしまった。
 
 
 翌朝、最初に目を覚ましたサジタリウスに続き、キャンサーとアリエス、ピスケスの順で目を覚ました一行は一人足りないことに部屋を見回す。
アリエスが無事ということは近くにいるはずだが、この部屋周辺にはいないようだ。
 勝手な行動に眉を寄せるアリエスだが、探さないとうっかり離れたりでもしたら大変ということで手分けして探すことになった。
 とはいえ、宿の中にいるはずのということで、ピスケスとサジタリウスはやることがあるため部屋に残り、キャンサーとアリエスの2人が探すことになった。
とりあえず2人は階下に降りる。
「あ、やっべ…昨日の晩風呂場にお守り忘れたかも…。」
「戦士の守りだっけ?装備してたの。普通の人が持っていても仕方ねぇし、まだあるだろう。」
 鎧などの防具は外していたアリエスだが、常に首から下げていたお守りがないことに気がつき、しまったという。
そういえば起きてからなんとなく力が下がっている気がする。
 ちょっと見てくる、というアリエスは奥の浴場へと向かう。
目当てのお守りはすぐに見つかったが、誰か使用しているのか黒いローブが目に入り、水音が聞こえる。
 
「キャンサーこっち。いた。」
 食堂を探しに行ったキャンサーに向かって呼びかけた。
一石二鳥とはこのことか、と思うアリエスだが、とりあえず勝手な行動をさせないよう注意してやろうと裾をまくった。
「のんきに朝風呂なんてはいって…あの野郎…。」
「そういえば…昨日の晩、あいつ湯を使ってなかったな。」
 まったく、というアリエスにキャンサーは昨日の晩のことを思い出す。
ずっと野宿のため川場で軽く洗う程度だったが、一行がそれを行っている間にもアクアリウスは荷物のところにいたため魔物はそういうものかと考えていたほどだ。
 
 魔物って不潔だなーというアリエスの目の前で戸が開く。
「失敬な。貴様らが川に入っている間に適当な獣に変化して洗っていたぞ。
 貴様らがなかなか休まないので昨晩ははいる時間がなかっただけ。それだけだ。」
 濡れた髪をかきあげ、出てきたアクアリウスは不機嫌そうに目の前の人間に言う。
髪を手早く拭くと額当てをつけ、眉を寄せた。
「いつまでいる気だ!!」
 廊下に放り投げられる勇者と格闘家。
その後ろで脱衣所の戸が閉められ、何事かとやってきた魔導師2人組は顔を見合わせた。
「何してんの?」
「いや…魔物の癖に人間と同じなんだなーと…。」
 馬鹿なの?というサジタリウスにアリエスは頬をかく。
ゴブリンのように緑色の肌だとかガーゴイルだと青い肌だとか…。
うろこだとか…。
 
「魔人型なんだから当たり前だろうが。吸血鬼やら淫魔やら見たことなのか。」
 本当にうるさいやつらだと言う顔で出てきたアクアリウスはローブを翻し、さっさと食堂へと向かった。