ずんずんと足をふみならし、先に進むアリエスにキャンサーとピスケスが続き、額当ての位置を直すアクアリウスとサジタリウスがそれを追う。
「まさか…おいらたちがやったのって。」
「そうだろうな。あぁ、そうだ。かなり警戒しているだろうから少し手を貸せ。」
 まだ表情の暗いサジタリウスの言葉を肯定するアクアリウスは先を歩く勇者に深々と溜息を吐いた。
「あっれ〜〜?なんかおんなじところぐるぐる周ってる気がするなぁ。」
 先ほどまでの怒りはどこへやら、辺りを見回すアリエスはまったく変わらない光景に首をかしげた。
キャンサーも辺りを見回し、ピスケスと顔を見合わせると後ろを歩く魔王を見る。
「本当は結界を張っている本人には私だけ出会いたいが…。限界まで離れてくれるのならばこの幻術を突破するが…どうする?」
 やりたくないな、というアクアリウスにアリエスは睨むが、この魔王の言うことを聞かないと延々と彷徨いそうではある。
「わーかったよ。ギリギリまでさがりゃいいんだろ。」
 魔王に従うのがまっぴらごめんなアリエスはしぶしぶと言った様子で下がるとアクアリウスとサジタリウスが先を歩く。
 
 
 少し歩くとアクアリウスは手ごろな葉を手に取り、口にあてた。
甲高い草笛を吹くと辺りを見回し、何かを待つ。
「何を待っているの?」
 首をかしげるピスケスだが、背の低い草が揺れ、思わず見守る。
「さっき入ってきたの…お兄さん達?」
 現れたのはどこか子犬のような顔をした少年だった。
じろじろと眺めると草笛を吹いたアクアリウスを仰ぎ見る。
「少し話がしたい。結界を張っている物にこれを渡してくれ。魔岩石だ。」
「すごい魔力…。いいの!?リリナの魔力が弱まってきたから嬉しい…。ちょっとまってて!リリナに渡してくる!!」
 懐から紫色の石を取りだすと少年の掌にのせ、渡して来いと促す。
身を翻し、姿を消す少年だがその後ろ姿にアリエスは目をしばたかせた。
「今…茶色い尻尾生えてなかった?」
「あぁ…。犬の尻尾みたいなのが…。」
 顔を見合わせるキャンサーとアリエスは木に寄りかかるアクアリウスを見た。
 
 ほどなくしてフードを深くかぶった少女が姿を現した。
「この魔岩石…こんなに大きなのいただいて平気なのですか?こんな純度の高いもの…。」
「大丈夫だ。それより…」
 困惑した様子の少女は魔岩石を差し出し、受け取っていいのか迷う。
うなずくアクアリウスにほっと溜息を吐くと魔岩石を握りしめ、魔力を充填する。
「ありがとう。じゃあ…こっちに付いてきて。」
 幾分か声に元気の出た少女はアクアリウスの腕をひき、木陰に入っていく。