木々の間を抜け、山を登ると古い丸太の家が見えてきた。
窓から数人の子供の顔がのぞき入り口では心配そうな先ほどの少年が立っていた。
「ルーフ、ディーネの様子はどう?」
「大丈夫。さっき水交換してあげたし…。でも早くどこか移動しなきゃリリナの結界が持たないよ。下の人間達、ディーネの事探してるよ。」
 リリナはすぐに先ほどの少年、ルーフに声をかける。
言葉の端々に疑問符が出るアリエスとキャンサーだが、ピスケスも何かに気がついたのか息をのみ込んだ。
「そこの人…私達のこといじめない?」
 首をかしげる小さな子供がルーフの後ろから顔を出し、アクアリウスの後ろにいる一行を見る。
「あぁ、大丈夫だ。誰もお前たちを攻撃しない。」
 余計なことは言うな、視線を送るアクアリウスにアリエスはそっぽを向くことで答えた。
アクアリウスの裾を引く少年はフードの中から琥珀色の目を向ける。
「わかった…。ねぇ。おじちゃんの額…もしかして魔眼?オックスの言っていたのケイオスの…魔王様?」
 何だ、と少年の目の高さまでかがむアクアリウスに少年は指差す。
額当てを見つめる少年にアクアリウスは小さく息を吐いた。
「まったく…。オックスの奴め。そうだ。オックスから聞いてはいたが…もう少し早くに来るべきだったな。すまない。」
 すごい、とはしゃぐ少年の頭を撫で、立ちあがると指を軽く鳴らし姿を変える。
と言っても耳の後ろから角を生やし、短く見せていた耳の長さを元に戻しただけだ。
「お前角生えてたっけ…?」
「戦闘中邪魔だから消してただけだ。とりあえず、ややこしくなるから黙っとけ。」
 
 いろいろ聞きたいことが多いが、とりあえず聞きやすいことから、と口を開いたアリエスだが、アクアリウスの言葉に頬をひきつらせた。
「お前っ「ねぇ、貴方達は皆魔人なの?」
 いちいち命令口調でいうな、と怒鳴ろうとしたアリエスをピスケスが遮る。
むっとするアリエスだが、フードを脱ぐ子供達に目を向けた。
 ぴょこりと立った耳が現れ、ふさふさとした尻尾が静かに揺れる少年は琥珀色の瞳を瞬かせ半狼だよ、と答えた。
 ルーフも何度か髪を撫でつけると黒い耳を立たせ、半犬だよ、と答える。
リリムもフードを外すと長い耳を出し、夢魔ですと答える。
「まさか…ここにいるのって皆…。」
「うん。オックスが助けてくれたりして集まった魔人の子供だよ。あとは半分人間の子。下にいる人間たちに追われて今ここにいるんだ。」
 驚くキャンサーにルーフは迷惑してるんだよね、と顔をしかめて見せた。
「ディーネっていうのはどこにいるんだ?」
「ディーネ姉さんは一番奥で足を冷やしてるよ。魔王のおじちゃん、ディーネ姉さん助けてあげて。綺麗な水が手に入らないからかわいそうで…。でも下は人間がいていけないし。」
 蛇のような鱗のある小さな少女はアクアリウスを仰ぎ見てお願い、と繰り返す。
わかった、と頷くアクアリウスは一行を振り返る。
 
 子供達が群がるサジタリウスは戸惑う様に相手をしており、キャンサーもまた小さな子供を高く抱き上げていた。
「白魔導師、治癒呪文は得意だろう?一緒に来てくれ。」
「もちろんできるよ。」
 壁に寄りかかり、黙っているアリエスを見守っていたピスケスだが、案内されるアクエリウスの後を追った。