先ほどのオックスの村の隣町に着いたのは4日後だ。
やはり師匠の足取りはなく、弟子二人は肩を落とした。
「足取りすらないのか…。本当にどこか移動しているのか?」
 まだごく一部の地域しか見てはいないが、弟子たちの口ぶりから少なくとも、魔王城に来るまでの道のりで、一度も遭遇しておらず接近すらしていないらしい。
なら逆にたどったところでやはり合う確率は低いんじゃないのか、とアクアリウスは磨いていた水晶をしまいながら言う。
「おぉ!そういえば…。家に帰っているかも!その可能性忘れてた!」
「あー。そういえば…そういうこともあるのか。」
 そろって手を叩く魔導師コンビ。
とった宿の部屋で寛いでいたアリエスとキャンサーは揃って座っていた場所から転がり落ちた。
アクアリウスは椅子から落ちなかったものの、馬鹿かと呆れた顔になる。
深々とため息をつく魔王は窓のほうへと顔を向けた。
 
「それでは今後はとりあえず隣の町に行き、宝珠を助けて…?」
 お前らなーとため息をつきつつ、倒れた椅子を直すアリエスは突然言葉をとぎらせ、窓辺による魔王をみた。
 窓から何かを探すかのように若干身を乗り出している魔王の隣に立ち、同じようにアリエスも町の様子を見るが特に変わったところはない。
「どうしたんだよいきなり。」
「何か見えるか?全然わかんねぇんだが…」
「何か見える?サジタリウス。」
「魔物の気配…。それにこれは…魔物の子供?」
 そこまで広くない窓に集まる一行は魔王が見ている方向を見るが、やはり異常は見えない。
だがサジタリウスの言葉にアクアリスは顔色を変えると窓から外へと飛び出した。
「ちょっ!!死ぬ死ぬ!!!おい待てよ!」
 命がつながっているアリエスは3階から飛び降りて無事な魔王に驚きつつも、半径200mの範囲から出てしまう、と顔色を変え窓に手をかけるが踵を返し急いで階段を駆け降りる。
 
「まさか…この気配って。」
「サジタリウス、早く!」
 腕を組み、考えるサジタリウスをピスケスは早くと促しアリエスの後を追う。
アリエスはかろうじて範囲から出てはいないようだが、手の甲に刻まれた呪いが痛むらしく顔をしかめ腕を抑える。
「何だって魔導師のおいらがこうも金にならないようなことをしなきゃなんないんだよ…。筋肉痛はただ損なだけだっていうのに。」
 必死に走るサジタリウスは最後尾にいるピスケスの腕をつかみ、ぶつぶつと呟きながらキャンサーのすぐ後ろをかけっていく。
「なんだかんだいいながらサジタリウスは足早いなぁ。それに力もあるし…。」
「山育ちだから。それより、やっと追い付いた!」
 キャンサーにそっけなく返すサジタリウスは人だかりができている場所へとたどり着いた。
輪の中には倒れた犬とそばに寄り添う小さな姿、そしてそれを背にかばうアクアリウスの姿と対峙する男たちがいた。