ピスケスとサジタリウスに手当てを受けたフェンリは他に誰もいないため、見たことのある人狼型へと姿を変えた。
「まぁったく。魔岩石あげたっていうから補充に持ってきたのに…。カスプ様は付いてきちゃうし、アクアリウス様は怪我するし、投げられるし。ほんっっっとうについてねぇなぁ。」
 まったくよう、というフェンリはどこかに消えた二人について一行に愚痴る。
「えっと…あれってマジで親子?というか幾つだよ…。」
「カスプ様はアクアリウス様の実の娘だよ。まぁ、魔王としての力うんぬん以前に魔力があんまりないので、跡継ぎにゃならないから安心しな。年齢は確か…。」
「8歳。フェンリ、あとでパパの額当て直してあげて。魔眼使ったみたいで、緩んでたの。」
 アリエスの問いに答えるフェンリは何歳だったか、と考え小さな少女の声がそれに答えた。
茶色い髪に黄金色の瞳を持った少女はリボンを揺らし、大事そうに兎を抱えて部屋へとはいってくる。
 額当てをしているため、件の父親だろうが黒いウサギは眼を閉じ抱えられるがままになっている。
 その胴には白い布が巻かれ、少しいびつなちょうちょ結びで結ばれていた。
 
「パパ今寝ているの。持ち運びできるようにって兎になってもらったんだけど…びっくりした?」
 よいしょっ、と椅子に座ると兎を膝の上に乗せ頭をなでる。
 
「8つって。あれこいつ…じゃなくてえぇと…お前の…あぁややこしい!こいつの嫁は割と最近死…いった!!」
「少しはデリカシーってものを持てよ!」
 ばしっとキャンサーに叩かれ、アリエスは頭を机にぶつける。
「ママは3年前にお星さまになったよ。それからずっとパパの眼はトカゲみたいに膜はっているの。パパ、ママのこと大好きだったから。パパね、人間の体を使って生まれた魔王だからとっても人間寄りなの。だから、ママは」
「カスプ…そういう話をしたいならわたしを部屋に置いておくべきだと思うが?」
 にこにこと話すカスプに、兎には似合わない男の声がため息交じりに遮る。
「あ!パパ!もう少し寝ててよかったのに。ねぇねぇ、一緒にお風呂はいろー。」
「カスプ。少しは私の立場とかそういうのをだな。」
 笑うカスプが兎を抱き上げると小さな子が兎をかわいがっている図にしか見えないが、兎から聞こえる声はアクアリウスの声であり、中身を考えるとほほえましく見えない。
 
 
「えぇっと…人間から生まれたって?」
「あぁ、魔王の生まれ方は何通りがあるんだが、一般的なのは自ら魔力を練って生み出す方法。そして私の父は…フェンリ、カスプの耳をふさいでくれ。」
 とりあえず疑問を順序よく片づけていこう、とキャンサーはどういうことだ?と首をかしげる。
しぶしぶといった様子で娘に撫でられるアクアリウスは、無表情が基本のはずの兎にしては渋い顔をすると深々とため息をはいた。
 カスプの背後に回ったフェンリが耳をふさぐのを確認すると、カスプに耳を引っ張られながら面倒だな、と小さくつぶやく。
「私の父…前魔王は女性に自らの魔力の塊をいれ、その命を代償に赤子を産ませる方法で魔王を作ろうとした。まぁそのほうがより強い魔王を生みだすことができる可能性がある…というのと女性を愚弄し、道具同然に扱うことで優越感を満たす…まぁ下種な目的であらゆる種族の女性を集めては魔力の塊を飲み込ませていた。で、その中で普通食ったり、ただ殺すだけしかしないような人間の女にやったらどうなるのかという興味本位でやったところ、女の体を割いて生まれたのが魔眼を持つ子供…つまりは次の魔王の資格を持った私だったというわけだ。そのおかげで人間としての力やら能力やら、母体になった人間の特性を受け継いだというわけだ。」
 他の兄弟たちは生まれる前に死んだり、普通の魔物にしかならなかったんで、処分するなりその一族のところに入れたりとしていたらしい。
 ゴブリンのオックスの父もまたその一人だ、というアクアリウスはフェンリにもういいぞ、と声をかける。