「…は…で…可能なのか?」
「いや…は…で…だから…だ。それに…で…そうするには…を…で…にする。」
 魔導師たちの会話が始まり、まったく輪に入れないアリエスは同じく入れずに寂しくしているはずのキャンサーを見る。
フェンリの背からキャンサーの肩に移った少女は楽しげに笑い、それにキャンサーも楽しそうにしている。
 ぼっちは一人…いや、一人と一匹。
「なぁ、お前って何歳なの?犬系だから結構若い?でも結構年取ってるように見えたから…あ、俺17。」
「いや、若いには若いが…。俺を何歳だと思ったんだ?年齢でいえば150歳ぐらいだったと思うが、肉体年齢的には20後半ぐらいだと思うぞ。」
 とりあえずぼっちはさみしいと、隣を歩くフェンリに声をかけると、魔物特有の長寿であることが分かる。
「へぇ…やっぱ長寿だなぁ…。よぼよぼにならないんだな。」
「あんまり老化はしないな。いっとくけどな、あの若作り…あいつは結構いい年だぞ。若く見えるけどな。」
 人間だったらもうよぼよぼどころじゃねぇや、というアリエスに小声で話すフェンリはあいつ、と鼻先で示した。
 
「フェンリも知っているでしょ。パパはカスプが生まれたから仕方ないんだよ。ってママが言ってた。」
「あぁ、そういえばそうか。サディアさんはめっちゃ笑ってたな。懐かしい…。確か笑ったあとのろけられたんだよな…。」
 カスプの言葉に、フェンリはくつくつと笑うと上機嫌に尾を振る。
にこにこと笑うカスプにアリエスは本当にこのほのぼの空気やだ、と内心思いつつあることに首をかしげた。
「あれ素顔じゃねぇの?寝てるときに髪黒かったりするのって…もしかしてそれが素?」
「あ〜〜…本当に大丈夫なのか?ちょっと今夜あたりに素顔のなってもらうしかないな…。ったく…お前たちのせいでこの世界始まって以来の面倒事になったな。やっぱり魔眼が原因か…。」
 アリエスの問いにフェンリは急に険しい顔になると、犬面に眉間にしわを寄せて呟く。
「黒い髪はまぁいろいろあって…。でもまぁ素に一番近い状態ってやつかな。あ、そうだ。寝ているときに黒髪になっていたら80%以上の力がダウンしてるから敵襲とか気をつけたほうがいいぞ。特にカスプ様がそばにいるときはその状態でも戦おうとするから被ダメがやばい。」
 黒髪の時はいたわらないとお前も巻き添えで死ぬぞーというフェンリに、アリエスは思わず足をとめた。
「ちょっちょっちょっちょ!!え?なにそれマジで!?」
「まじまじおおマジ。あ…悪いんだけど、俺運んでくれ…きゃいん!」
 思わず声がでかくなるアリエスに頷くフェンリだったが、はっと前を見ると口早に頼み込み、電撃に倒れる。
もちろん、カスプは無傷で宙に浮いていた。
「ペラッペラペラッペラペラ口の軽いワンころだなぁおめぇはよ。いらないことまでピーチクパーチク…おめぇの頭は飾りか?あんだけ言ったのにまだそのちっちぇぇ脳みそに押し込めねぇのか?あぁ!?」
 電撃だけじゃ物足りないのか、直接蹴り飛ばしにきたアクアリウスはいつもの静かな口調はどこへやら、フェンリに負けず劣らずの口調になり、狼男を罵る。
「うっせぇえ!いいじゃんか髪の色ぐらい!!大体口調!いい年こいて口調思いっきり崩れてんじゃねぇよおっさん!!!」
「お前のせいだろうがこのくそ犬!誰が好き好んでサディアにさんざん言われてた口調が出ると思ってんだ!毛皮にして二束三文で売り飛ばすぞ!この毛玉!」
「毛玉じゃねぇっつううの!っていうか俺は狼だ!人間にへーこらしてるような犬と一緒にすんな爺!知ってんぞ…俺の親父と一緒に木のぼりして二人して降りられなくなって、迎えに来たばーちゃんに呆れられて丸一日放置されたっていうヘタレエピソード!」
「なっ…あれは幼少期だろうが!!大体お前の盛大に描いた朝の地図、誰が洗濯してやってたと思ってるんだ!」
「あ…あれは…」
「おまけに初めて獣人化したときに戻り方わからないってピーピー泣いてた馬鹿がどこのどいつだ。大体な、いまだに許してないからな。サディアの着替え覗いたこと。」
「あれは事故だ!!決して…決して覗いたわけじゃない!!サジタリウス!俺は別に故意に見たわけじゃなくて、こいつの部屋に入ったらそこで着替えてたわけで…悪いのはこいつが起きるの遅かっただけだ!!」
 やかましい、というアクアリウスの拳骨に沈むフェンリに、ちょっと遠巻きに見ていた一行は顔を見合わせた。
カスプは慣れているのか、けらけらと笑っている。